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伊関先生①~ジークヴァルト~

「家に帰るんじゃなかったの?」家とは別方向に向かう凱に私は問う。


「ちょっと学校に野暮用。」そう言いながら凱は先を急ぐ。


「ずる休みの弁明でも行くのか?」玄人は笑いながら言う。


「な、わけ…。いぜっきーの力が必要なんだ。」」凱の顔は真剣だ。


「なんだよ、やっぱり担任買収するんだな!了解したぜ!」玄人は楽しそうに、今度は私たちを横目に見ながら追い抜かし、前を歩く。


 この時、私は凱が何を企んでいるのか予想も出来ず、何となくではあったが、凱だけは敵に回してはいけない気がしてならなかった。


「先生、お久しぶりです。」凱は長期欠席していようがお構いなしに、職員室を堂々といぜっきーの机まで颯爽と歩き、彼の前で立ち止まる。


「おお、凱と莉羽!お前たち無事だったんだな!突然来なくなって、あの事件に巻き込まれたのかと思って、お母さんに連絡してたんだが…、戻ってこれたのか…。記憶はある?ありそうだな…、よかった。」立ち上がって私と凱を迎えるいぜっきー。


「学校でもあの事件の被害者は出てるんですか?」私は尋ねる。


「ああ、全校で30人くらいの報告は受けているんだけれど…。お前たちみたいに2か月来ないっていうのは他にはいないなあ…。」


「そうなんですね…。じゃあ、みんな戻って来れてるんだ…。」私は安堵の表情を浮かべる。


「ああ…、でも記憶は…みんな無くしてるけどな…。あと…、お前の相棒はまだ帰って来てない…。」いぜっきーは私がショックを受けるのではと顔色を伺いながら続ける。


「早く戻ってくればとみんな願ってるよ…。」うつむきながら話し、椅子に座りなおして玄人を見る。


「そう、お前があいつの帰りを一番強く望んでるよな…。」玄人はその言葉に唇を噛みしめる。重苦しい空気が立ち込める。するとそれを壊すように突然、


「それはそうと…、ジークヴァルトさん、依頼です。」凱が、いぜっきーの方を見て話し始める。


 私と玄人は何を言っているのか分からず、凱を見る。凱がニヤッといぜっきーのパソコンに何かを入力し始める。いぜっきーは動揺しているのか額から脂汗が滲んでいるのが見て取れる。


「先生?」私が声をかけるといぜっきーは我に返ったのか、こちらを見てすぐに、


「何言ってるんだ?凱。」冷静を何とか装おうとしているが、動揺が隠せない先生は顔を紅潮させながら凱からパソコンを取り返そうとするが、凱は私にそれを渡して、


「さて、パスワードは何だっけ?莉羽、覚えてる?」凱はそう言って私を見る。突然話を振られた私は焦りながら、


「えっと、この前のやつだよね?」と聞くと黙って凱は頷く。


「なっ、何で宮國が知ってるんだよ…。」いぜっきーはさらに驚く。


「何をしようとしてるか分からないけど…、ほんとにいいの?凱。」私は悪事の片棒を担ぐような気持ちでゆっくりパスワードを耳打ちする。


「サンキュ。」凱はそう言うと、とてつもない速さでパスワードを打ち込む。それを見た玄人は、


「凱、お前…。なんだその速さは…、そんなにお前、パソコン得意だったっけ?」玄人は目を丸くしている。


「驚くのはそこじゃないんだよ、玄人。」凱はそう言いながら、その後も驚くような速さで何かを打ち込んでいる。


 その凱の様子に焦りと驚きと猜疑心にまみれているいぜっきーの心臓の鼓動が、私にも聞こえてくるのではないかと思うくらいに彼の顔は動揺で歪んでいた。


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