【佑依の行方~母の涙~】
佑依の家の前に着いた私たちは最悪なケースも想定し、緊張の中インターホンを押す。
「はい。どなた?」聞きなれたはずの佑依の母とは思えない沈んだ声が聞こえる。
「おばさん、お久ぶりです。莉羽です。佑依は…いる?」私は恐る恐る聞いてみる。
「莉羽ちゃんに凱君、久しぶりね。来てくれてありがとう。」急いで玄関に出てきた佑依の母は、クマがひどく少しやつれたように見える。
「おばさん?」
「とりあえず、2人とも中に入って。」家の中に通される私と凱。
佑依の母は私たちをリビングに招き入れると、
「お茶でいいかしら?」と言ってキッチンに向かう。その間、私は以前とは変わり果てたその部屋を見回す。親友である佑依の家は、何度となくお邪魔している私。そんな私にとって、掃除もままならず、物が散乱しているこの部屋の状態は、違和感以外の何物でもない。
何とも言いようのない胸騒ぎを感じながら、凱の顔を見ると、凱は、『自分からは何も言うな』とでも言わんばかりの顔で、首を横に振る。私が今にも泣きだしそうになる気持ちを押さえ、お茶を運んでくる佑依の母の顔を見れずにいると、深く深呼吸した佑依の母が話し始める。
「莉羽ちゃん…。実は…、佑依が10日前からいなくなったの…。どこを探してもいないのよ…。」佑依の写真をうつろな目で見る佑依の母の瞳から涙が一筋こぼれる。
「…。」いつも元気いっぱいで、ガハハハ笑う姿が世に言う「お母ちゃん」的な印象の佑依の母の涙を、まさかこんな形で見るとは…。私は溢れそうな涙を堪える。
「ここ最近のニュースでは、たいてい失踪者は5日くらいで帰ってくるって言ってるのに…。もう10日も経つの…。私も、もうどうしていいか…、分からないのよ…。」私は涙が止まらない佑依の母の肩を抱きしめて、
「おばさん…。私も一緒に探すから、帰りを待とう。佑依の事だから、お腹すいた~って何事もなかったように帰ってくるかもしれないし。」
「…。」言葉の出ない佑依の母は目を瞑り、うんと頷き、何とか作り上げた笑顔で、
「そうね。信じて待つしかないわね。」涙を拭う。そして私の手を取って、
「莉羽ちゃん、凱君もありがとう。2人の顔を見たら少し元気出てきたわ。」
「おばさん、無理はしないでね。いつでも連絡してきて!」
「ええ、そうさせてもらうわ。…、あっ、そういえば、佑依がいなくなる直前、莉羽ちゃんに渡すものがあるって言ってたけど…、もしかしたら佑依の部屋に残ってるかもしれないわね。一緒に来てくれる?」
「渡したいもの?なんだろう…。」
私たちは2階にある佑依の部屋の前に立つと、無意識に顔を見合わせる。ドアを開けなくても感じられる異様な淀み。おそらく、高レベルの能力者に連れていかれたのだろう。尋常じゃない空気が漂っている。




