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【第7夜 後半④~帰還そして最悪な知らせ~】

 次の日の朝、私たちが帰還の準備をしていると、アーロとミディアとリディアが慌てた様子でやってくる。

「どうしたの?アーロ。」私はその慌てぶりが尋常でない事を疑問に思い、尋ねる。

「魔導書が…魔導書が…。」アーロが声を震わせ、自分を落ち着かせるために、一度深呼吸して答える。

「魔導書がどうしたんだ?」クラウディスが聞く。

「この村全部の魔導書が、無くなってるんだ。昨日まではあったのに…。」この場の空気に緊張が走る。

「魔導書って、どの家にもある、代々伝わる貴重なものでしょ?」

「うん、そう。その魔導書は、家々で代々保管、継承していかなければならないものだって父様が言ってた。」リディアがいう。


 私はふとシュバリエの〈石〉のことを思い出す。シュバリエでの〈石〉も、家宝として各家々で大切に扱われていた。それが一気に紛失…。

「クラウディス。至急王都に、王都保管の魔導書の確認と、この国全域の魔導書の所在を確認させるよう伝えて。」私が1人焦っていると、

「突然どうしたの?莉羽ちゃん。この国全域って…。」とクラウディス言うと、凱が、

「兄さん、確認したほうがいい。今まで魔導書が狙われたことなんて一度もない。でも、最近の拉致事件といい、魔獣の増加といい、未曾有の事件ばかり起きている。何もなければいいけれど、もしもってことが…。」クラウディスは凱の言葉に、やや機嫌を損ねて、

「我々は至急王都に帰還。各地に派遣されてる調査部隊は、至急各家庭の魔導書の所在を確認するよう伝達せよ。」と言うと、第8皇兵団で移動魔法に長けたものを呼び寄せ、直ちに王都、各地に移動し、魔導書について報告、確認するよう手配を始める。


「莉羽、なんで気づいたの?」今まであまり口を開かなった莉奈が話しかけてくる。そこで凱の忠告、


『仲間といえど他言無用』と釘を刺されたことを思い出す。


「しばらく考えていたんだけど…、魔獣は人を連れ去るけど、そのあと拉致した人で戻ってくる人もいるし、ただ単純に人を狙っているわけじゃないのかなって思って。それなら何を狙ってるんだろうって考えたら、この国の住人が大切にしているものが一番狙われそうじゃない?だとしたら、この国では魔導書しかないかなって。そう思ったの。」と言うと、莉奈は尊敬の眼差しで私を見る。そして、

「さすが目の付け所が違うわね、姉さまは!」と言って抱きついてくる。


『さすがにシュバリエの石の件で思いついたとは言えないよね…。』


 私が心の中で危なかった~と冷や冷やしていると、

「ねえ、莉羽。また来てくれる?」ミディアが私の手を握りながら、甘えた声で聞いてくる。

「リディアもまた来てほしい!」

「僕も!」アーロも珍しく素直だ。するとガージリフトが、

「子供たちがすみません。莉羽様のことが大好きなようで…。」と申し訳なさそうに話す。

「いいえ。私もみんなのことが大好きです。だからまた来ます。その時はみんな、またたくさん遊ぼうね。」そう笑顔で答える私に、ガージリフトは神妙な面持ちで、

「今回の修業で…、莉羽様を危険な目に合わせてしまったこと、心よりお詫びいたします。」深々と頭を下げた後、跪くガージリフト。私は彼の肩に手を置いて、

「あなたのおかげで私は稀代な力を得ることができたのです。だから自分を責めないでください。この経験は、私に自信をも与えてくれました。逆に感謝したいくらいです。顔を上げてください。」そう言うと、彼はゆっくり顔をあげる。


「ガージリフトさん。私、この国を守ります。魔獣とあと…未知?の敵。全然真相が見えなくて、相手が何者なのか分からないのが問題ですが、みんなの幸せを取り戻せるよう、手に入れたこの力で私、戦います!」ガージリフトは感動で、今にも泣きそうな目で私を見ながら、

「私もあなたの御力になりたいです。その時が来たら、是非呼んでください。」私とガージリフトのやり取りを、この部屋にいる仲間たちが聞いている。皆、私たちの言葉に胸を熱くし、決意を新たにする。


そして私たちはこの村を後にした。



 王都に帰還する間に、魔導書についての報告が来るのを、今か今かと待っている一行。クラウディスは相変わらず、「私大好きモード」でべたべたしてくるし、莉奈は凱の馬に一緒に乗りたいと言って駄々をこね、凱を困らせる始末。父の計画さえなければいろいろ自由になれるのに…と少し苛立ちながら馬を走らせる。帰途を急ぐ中、


『休憩を取りたい』


 莉奈の提案でしばし休憩をとることにする。私はクラウディスの過剰なスキンシップに疲れていたので、彼に見つからないように町はずれの薬屋に行き、癒し効果のある薬草ホワイトローズを煎じてもらっていた。


 その間、私は近くにある湖のほとりで仮眠をとることにする。目を閉じると浮かぶのは、この数日間で起きた様々なこと。でも今一番気になっているのは、シュバリエ、このメルゼブルクで起きている拉致事件。この異常事態に、私の予想通り、魔導書が紛失していたら…と思うと、夢の中の出来事とはいえ、恐怖を感じる。共通事項がこんなにも存在するのは、私の深層心理に、


『現実の様々なものから逃げ出したいとの、私自身の欲求でもあるのか?』


とまで考えてしまう。夢の中にたくさん難題があることで、そちらに意識を集中させて、現実逃避でもしようと、私の精神状態はそこまで行ってしまっているのかと…。1人そんなことを考え、呆れて苦笑いする。


 確かに凱と莉奈の件は、心が張り裂けそうなほど辛い。こんな思いを味わったことがないから余計だ。今まで自分の問題は、どんなに難しくても、辛くても、自分でどうにかするしかなかったし、何とか乗り越えてきた。

 でも恋愛に関しては相手があるもの。相手あっての問題なので、私1人で解決できるものではない。だから何とか苦しみながらも乗り越えていかねばならない…と自分に思い込ませているのは事実だが、心を癒す薬が欲しい…そう思ってしまう。


『でもほんとに夢の共通事項は何なのだろう?』


 と、考えていると、私がいる湖の対角線上に莉奈の姿が見える。


『莉奈?何やってるのかな?』


 様子を見ていると、そこに第8皇兵団の1人が現れ、何かを話している。莉奈がその団員に手を差し出し、それを握り返す団員の姿に違和感を覚えるが、そのあと2人は湖を囲む森の中に消えていった。


『莉奈が団員と話してるイメージないのに…。シュバリエでも、ここでも…。何を話しているんだろう…。』


と思っていると、


「莉奈は、ああやって団員と何を話してるんだろうな…。」という声が聞こえ、凱が突然姿を現す。驚いた私は、

「びっくりした!心臓止まるかと思ったよ。」と言うと、

「あっごめん…。莉奈が出ていくからどこまで行くんだろうってついてきたら…ってか、お前何してんの?」

「ちょっと疲れたから休んでる…。ちょっとここ最近いろいろありすぎて…。キャパオーバー。」そう言って凱の顔を見て、

「ねえ、正直に言ってもいい?」意味深に聞こえる言葉に凱は焦って、

「なっ、なんだよ。怖いな…。」という様子から、動揺を隠せないのが見て取れる。

「私、クラウディスのスキンシップ、耐えられない…。異性から慕われるのは…、現実でも経験したことないし、すごく嬉しいんだけど…、ちょっと度を越してるというか…、なんというか…。」と言葉を濁し、私が困惑していると、

「恋愛って、相手との気持ちのバランスが難しいよな。こっちの思いが強すぎてもだめだし、相手の思いが強すぎても…。ほんとにこればっかはどうにもならないんだと思う。」と恋愛について饒舌に答える凱に、私は呆然としてしまう。


『ほんとにこの人ってば凱なの?え?凱って、私の知らないところで恋の駆け引き経験済み?この饒舌ぶりは何?一緒に陸上だけやってる陸上馬鹿かと思ってたのに…。今の、『恋の駆け引き、知ってますよ』風な…。』


私は時が止まったように動けなくなった。


「おい、莉羽、莉羽~。」と声をかける凱に、ようやく私は我に返り、

「ああ、そうだよね~。ほんとに駆け引きって難しいよね…。」と焦りで顔を引きつらせながら答える。


 そのあと、シュバリエとメルゼブルクの事件の共通性について話そうと思っていたが、私はさっきの凱の言葉が気になって仕方がない。でもこれ以上聞く勇気もない。私は眠れぬ日々が再び訪れることを覚悟しながら、何気ない話をして集合場所に戻り、帰還の準備をする。


 そこに待ちに待った魔法省からの報告書を持った団員が、私たちに最悪な悲報を知らせる。


『メルゼブルク全域の家庭から魔導書が消えた』と。



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