【ファータ王~歪んだ平和思想~】
ファータ王宮。巨大肖像画の前で、国王により捕らわれた兵団長コンラードの妻バーバラ、娘メイアがうなだれている。
「ふん。兵団長が石の保持者ゆえ、お前たちも何かしらの能力者かと思えば、石の存在さえも知らぬ、能なしだとはな…。」国王は吐き捨てるように言い放つ。その姿は私が知る以前のそれとは全く異なり、穏やかな笑顔も優しい口調も消え失せていた。
「石って何の話ですか?王自身がおっしゃる通り、私たちは何も知りませんし、能力もありません。早く家に帰らせてください。」バーバラは娘の体調のことが心配で気が気でならない。
「お母さん。私は大丈夫。それより、この人は私たちが知っているファータ王とは別人だわ。見る影もない。もしここにお父さんが来たら…、殺されてしまうかもしれない。」メイアが聞こえないような小さな声で話すが、全て筒抜けなのか、
「別人か…。私は変わっていないつもりだがな…。」王は肖像画を見て、
「私の思いは初めから何一つ変わっていない。すべてはこの星の者たちの幸福を願っての事。この星の創造主もそれを望んでいる。この計画の裏に真の幸せが待っているのだ。お前たちもその世界を作る基になるのだから、喜ぶがいい。」
「王は何を言ってるのかしら…。基って何?私たちはその新しい世界の犠牲になるっていうこと?」メイアは母に小声で聞く。
「お母さんにも意味が分からない。あんなにも大らかで慈愛に満ち溢れていた王が…。どういうことなのかしら?」母の言葉を聞いて増々王の言葉の意味が分からず、しびれを切らしたメイアが、
「王。真の幸せって何ですか?私たち国民は今現在、王が治めていらっしゃるこの国で、これ以上ないくらい幸せです。」思い切って王に尋ねる。
「幸せか…。この幸せを守るためにどれだけの人間が動き、命を失っているか、お前たちには分からぬだろう。私は、この星で争いが起きぬよう常に監視をしておる。しかし、人間は些細なことでも大きな争いを生みだしてしまう罪深い生き物だ。私がこの星を治めてからというもの、常にどこかしらで争いは起きている。しかしお前たちは知らぬだろう?それは私がその不穏分子をすべて根絶やしにしているからだ。だから戦争になる前に、事は抑えられている。それも知らんで幸せを語るなど…。」王は呆れた顔で話す。するとそこに、
「なんだよ、なんだよ。その恩着せがましい話は…。そもそも国王がこの星、民の平和を願って治めるのは当たり前の事だろう。それが何だよ…。不穏分子を殺してまでお前たちの幸せを作ってやってるんだ…みたいな言い様は…。結局お前は、戦争による人殺しを止めさせたいって言いながら、自分こそたくさんの人を殺してきてるんだろうが。ふざけた平和思想語ってんじゃねえよ。」
そう言いながら現れたフィンが国王の頬を殴りつける。国王の体は宙を舞い、3mほど飛ばされる。




