【メルゼブルク王女~穢れなき瞳の少女~】
アースフィアの自宅に転送されてきたメルゼブルクの面々は見慣れぬ景色に落ち着かないようだ。そんな彼らに、
「ようこそ、わが家へ。」私は笑顔で迎える。
初めはきょろきょろと辺りを見回していた王だったが、私の顔を見て少し安心したのか、
「莉羽、凱。いろいろすまなかった。2人をどれだけ苦しめたことか…。」私を抱きしめて、今までのことを謝罪する。
「王。私たちはこうやって生きています。だから今は、そのお体を第一に考えてください。ここは私の父と母の結界の中なので、王にかけられた洗脳はもちろん、呪縛も解かれます。十分休んでください。それと…、その前に、リーゼキャロル王女に…。」私はそう言うと、リーゼキャロルとスヴェンを呼んで、
「王。お2人に言葉を…。」私は促す。
「莉羽、ありがとう。」王はそう言うと、
「リーゼキャロル!」娘である王女の名を呼ぶ。
「あなたは…?」リーゼキャロルは声のする方を見回す。
「リーゼキャロル様、こちらはメルゼブルクの国王様であり、あなた様のお父上でいらっしゃいます。」スヴェンが言う。
「お父様?」
「そうだ…。リーゼ、こんなにも大きくなって…。本当に、本当にすまない事をした。私が全て悪い。お前をわが父から守ることができず、14年もの間…。」父である国王はリーゼの手を取り、頭を垂れる。
手に触れたことで全てを理解したリーゼキャロルは、自分の中で何かを納得したように大きく頷き、
「…全て私の持つ力故です。なぜ私が幽閉されていたのか、そして今なぜ、私がこうやってここに立っているのかも、お父様の手を取ることで理解しました。謝罪の言葉は不要です。
私は生きています。それも全て、ここにいるスヴェンのおかげです。生まれたばかりの私を、あの光のない世界で今まで育ててくれたのです。そして…、生きる光を与えてくれた。私は何一つ、悔やむこともなければ、恨む心も有りません。だからどうか泣かないでください。」そう言って父の手を優しく握る。
「リーゼ…。」
全盲でありながら、その美しき穢れのないリーゼの瞳に聖なる輝きを見た父ハラールⅡ世は、再び大粒の涙を流す。自分の娘がその人生の大半を光無き世界で生きてきたとは思えない、聖女のような清き心を持つ娘に成長したこの奇跡を心から感謝するとともに、わが子を護ることが出来なかった非力な自分の不甲斐なさを痛感する。
「スヴェンといったな。そなたには本当に感謝しておる…。そなたがいなかったらと思うと…、心から礼を言う。」王が自ら頭を下げる。国王が頭を下げる事など、そうはあり得ない。その事態に驚いたスヴェンが、
「私は王命に従ったまでです。」と落ち着いた声で答える。
スヴェンのその短い言葉でさえ、その人柄と実直さを感じ、この14年、暗闇で生きることを余儀なくされた哀れな王女を支え、ここまでの成長をもたらしたスヴェンへの感謝の念で、王は言葉が発することができない。
「…。」涙がとまらない王の肩に私はそっと手を置く。そしてスヴェンを見て、
「14年もの間、光無き地下牢において、王女をよくここまで支えてくださいましたね。スヴェンは王女の眞守り人ですね。その忠誠心に深く感動しました。」涙を浮かべてそう言うと、王女はじっと私の方を見て、
「あなたは…、神の意思を持つ方…、遣士様でいらっしゃいますね?」
興奮気味に話す。




