【謎の少女~暗闇の中に咲く可憐な花~】
私が直接メルゼブルク国王に念を送ると、国王直属の特級魔法使いに察知される可能性があるため、こちら側の数人の魔法使いを介し、国王が洗脳状態であるかの確認をしてから心層に話しかける。
『メルゼブルク王。莉羽です。魔法省最高責任者オーディエンドの娘です。お体の方はいかがですか?』
『ん?おお、この声は…、莉羽。ん?そなたは先の戦いで死んだはずでは…?』凱と共に【死亡報告】を受けていた私の声に王は困惑しているようだ。
『そうです。でも、私は生きています。事は急を要するので急いで話しますが…、驚かずに聞いてください。
王、あなたはクラウディスと莉奈にかなり前から洗脳されていました。おそらく、今患っていらっしゃるその病気も、彼らの念が絡んでいるのではないかと思います。
今すぐその念の呪縛を解きたいのですが、こちらも死亡報告の手前、自由に動くことができません。そして今、彼らに洗脳された状態で王が治めてこられたメルゼブルクの情勢は乱れ、各地から王権反対派が首都に集結しています。おそらくここ数日の間に内乱が起きるでしょう。こちらから使いの者を出す準備は出来ています。国王の安全を第一に考えて、私たちの元に来ていただきたいと思っておりますが…。』
『何?私が洗脳されていたと?そして、その間に国が乱れたと…?側近の中には誰1人としてそのように申す者はおらんが…。まさかそんな事が…。
しかし、わしの今の病状では、その呪縛を解くことも、現状を把握することも叶わない。』王は考えているのか、しばし沈黙が流れる。
『王、事は一刻を争います。お早いご決断を…』もし今の状況で王が再び洗脳されてしまったとしたら、メルゼブルクは救えないと王の判断を急かす私。すると、
『莉羽、洗脳によって…とはいえ、何度もそなたの命を奪おうとした身ではあるが、ここはそなたの提案を受け入れたいと思う…。出来るのであれば、許しを請いたい』王の声は苦痛に満ちている。
『良かった。では直ちにこちらから迎えの者を送りますので、しばしお待ちください。それと…』
『何かあるのか?』
『はい…、この少女をご存じですか?』メルゼブルク城の地下牢に幽閉されていると思われる少女のイメージを国王に送る。
『王宮の地下深くに幽閉されているようなんですが…。』
暗闇の中、ぼんやりと映し出されるその少女は、年齢は私と同じくらいか少し年下で、華奢なラインの体に何重ものすみれ色のレースが使われた愛らしいドレスを纏っている。淡いブルーの美しい髪は足首あたりまで伸び、目を閉じているせいか、長いまつ毛がより強調されて見える。一見幽閉されているようには見えない程美しく、品のある佇まいではあるが、状況的にはどう見ても幽閉という言葉が当てはまるのだろう。
王はそのイメージを感じ取ると目を見開き、驚いた表情を見せたかと思うと、そのまま大粒の涙を流し始める。そして、驚愕の一言を発する。
『こ…、これは、わしの娘、凱の妹じゃ…。』




