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【第7夜 後半③~使命~】

 亡霊魔獣との戦いの後、この村周辺の魔獣の数は減少した。第8皇兵団との調査も、拉致された人々が数人戻ってきたことで進展すると思われたが、全員記憶を失っているため平行線をたどり、結局何の進展もなかった。その状況から、明日の昼には王都に帰還することが決まる。


 村長主催の最後の宴が開かれる中、私は1人、テントから少し離れた小高い丘に向かう。無数に瞬く星空を見上げ、「現実世界のこと」「シュバリエのこと」「この星メルゼブルクのこと」を考える。


『このメルゼブルクも夢の中なのに、他の夢の世界のシュバリエの事とか考えてるし…』


 そんな自分をフッと思わず笑ってしまう。


 しかし、それぞれの世界で起きている全てのことが気になって、自然に考えてしまうんだろうなと…、自分なりに整理をつけようと、1人になれる場所を選んだのだった。


『最近の夢はリアルすぎて怖いくらい。何回も死にそうになるし、2つの星でかなり重要な役割を任されてるし…。現実での凱との関係で気持ちが落ち着かないっていうのになぁ…。そういえば、凱と莉奈の件も、リアルすぎる夢に振り回されて忘れそうになってるけど…。凱のあの笑みは何だったんだろう…。考えてもわからないけど…、考えずにはいられないんだよなぁ…。』

 

気持ちがもやもやして『うぅ~』と唸っていると、

「どうした?1人で」と、凱が現れる。びっくりした私は思わず、

「聞こえてないよね?」心の声が漏れていなかったかと焦っていると、笑いながら、

「唸ってるのはわかったよ。何考えてた?」

「ううん。なんでもないよ。ははは。」一気に恥ずかしさがこみ上げてくる。

「また今回も大変だったな…。でも、莉羽が無事で何よりだ。」真剣な顔で言う。

「本当に…、みんなのおかげだよ…。もちろん凱もね…。今こうやって、この星空見てて、凱が私を死の淵から引き戻そうとした時に言った、「あの夜」のこと思い出してたの。莉奈が危険な状態になって、お父さんもお母さんもうちに帰ってこなくて、ほんとに心細くてどうしようもなかった時に…、凱がそばにいてくれて…。だからいろんなことを冷静に考える事が出来て、あんな状況にも関わらず…医者になりたいって思えたんだと思う。あの夜、今日みたいに…澄み切った星空のもとでいろんな話ができたからこそ…。」ここまで言いかけると、


「次の日2人で初めての遅刻ができたってわけだ。」2人、顔を見合わせて大笑い。


 よく考えてみれば、莉奈と凱の日曜事件以来、夢の中とはいえ、ちゃんと顔を見れたような気がする。

「ははは。ほんとに…。でも大人たちは、状況が状況だけに、怒らなかったね。先生も…。」

「そうだな。お前の両親も、お前の寂しさに気づいていたけど、莉奈さんの命を考えると、お前に何もしてあげられないってことに、親なりの罪悪感を感じていただろうしな…。1人でいてさみしい思いをするなら、まだ俺といる方がましって。」

「そうそう。まあ、そのおかげで両親には頼らないって、意地張るくらいにいろいろ頑張ってこれたけど…。」

「俺には甘えっぱなしだけどな!」

「それは言わないで…。あっ、そうそう朝だって、毎日起こしてくれなくてもいいんだよ…。」私は自信なさげに言う。すると笑いながら、

「ほんとに大丈夫か?俺が起こさなかったら絶対遅刻するだろう?」

「はい…、すみません。ご迷惑をおかけしますが、今後ともよろしくお願いします。」

「ははは。わかってるよ。」

「あっ、迷惑と言えば…ガージリフトさんが洗脳されてたとはいえ、みんなに迷惑かけて…。」と、うつむいて言うと、

「迷惑じゃない、心配だろ。そりゃ仲間だから心配はするだろ。それよりもお前の能力。とんでもなく上がったな。やっぱりあの経験があったからこそ、だろう?」

「確かにガージリフトさんの修業は自分の力を上げてくれたし、洗脳がどういうものかも身をもって体験したのは大きかった…。でも自分の中ではっきりしたことがある。」私は星空を見上げながら言う。

「何?」

「私、夢の中でのことだけど…、この国の王女になるだけじゃなく、もっと重要な使命を任されているんじゃないかって…。それが何かは分からないけど…、そう思ったんだ。」凱はしばらく私の顔をまっすぐ見ていたが、そのうち視線を落として、

「使命か…。何だろうな…。」そこで私は突然思い出す。

「ねえ、凱?」

「ん?」

「隠してることあるよね?」あえて凱の方を見ずに聞く。

「何を?」

「亡霊魔獣との戦いの最後、クラウディスに自分の魔力を融合させて、さもクラウディスが倒したって風に見せたよね?」驚く凱。

「お前…、見えたのか…?」私は頷く。

「しかも、今までと桁違いの魔力を操って…。どうやってあそこまでの魔力を身に付けたの?この星でずっと一緒にいたけど、あそこまでの魔力は持っていなかったはず。しかもクラウディスの力に見せかけるって…」。凱は困惑した表情から普段の顔に戻して、

「莉羽も見えるようになったんだな。いろんなものが…。」

「いろんなもの?」

「この前話そうと思ってたんだけど、みんなが入ってきて話せなかったからな…。実はこの前、修行中、瀕死のお前を呼び戻そうとした時から、自分の魔力が桁違いに上がったことに気づいたんだ。お前の魔力も魔導書の会得で上がってるとは思うけど、あの経験が、俺たちの能力に少なからず影響してると思う。

それで、なぜクラウディスに魔力を乗せたかってことだよな?それは…、弟である俺の能力が突然上がって追い越されるのは、兄として不本意だろう?弟のほうが強いってなったら…。だからそれが善策だと思ったんだ。」まさかの答えに呆気にとられる私。

「あんな危機的状況の中で、よくそんなこと考える余裕があったね。やっぱりどうあがいても凱には勝てないなぁ…。」ちょっと悔しそうに言うと、

「俺がお前を守るって言ってんのに、お前より弱かったら話になんないだろ…?俺だって努力してんだよ…。」と笑って言う。

「あっ、それで大事なこと。」そう言うとポケットから何かを取り出そうとする凱。

「何?」

「これ、持ってて。」差し出したのは、直径5センチほどの真っ青に光る結晶。

「これ…。」私が言いかけると、

「はっきりわからないけど、クラウディスに俺の力を乗っけた時に、俺の魔力の段階が1つ、解放されたんだと思う。昔読んだ本に、力が解放されると、その力が結晶化して、それが守護石になるって。だから、これをお前に持っててほしいと思って。」

「守護石?私が持ってて…、いいの?」

「ああ、お前じゃなきゃ意味がない。」

「…。」凱は無意識に言ったのかもしれないが、凱に恋する私としては、深読みして当然の言葉に思えた。凱は私の真っ赤な顔に、自分の発した言葉の重みに自分でも驚いたのか、急いでその場を離れようとする。

「待って。」凱の言葉に、心臓が破裂しそうな私は、無意識に凱の手を引っ張った。


振り返る凱。


片手で顔をかくしてはいるものの、耳の赤さが全てを物語っている。

私は『えっ?』と驚く。


すると、凱は、

「幼馴染のお前に、もしものことがあったら、お前の父さんと母さんが泣くだろ。だから…。」と言って、うつむきながら、そそくさと行ってしまった。遠くから振り向きざま、

「早く戻れよ!」という凱の声だけ聞こえる。


『いろいろわからないことばっかだけど、さっきの凱の言葉をプラスに考えよう。マイナス思考は私らしくない!』と、さっきの凱の「言葉」と「表情」を思い出し、なんだかよく分からないけど…凱を心から信じてみようと思った。


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