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【100歩譲って…~想い溢れ~】

全体での話が終わり、それぞれが自分の部屋に戻っていく。私は自分の部屋で、先の戦いから今に至るまでの出来事を思い出していた。すると、いつぶりだろう…久々に凱の「合図」が聞こえる。私は急いで窓のカギを開け、凱を部屋に招き入れる。


「なんか、こういうの久しぶりだね…。」凱が私の世界から姿を消し、その間血眼になって探した記憶が蘇る。


「ああ…、そうだな…。」歯切れが悪い凱を不思議そうに見ていると、


「あの地割れが起きてから今までずっとお前を1人にしてきて…、ほんとにすまない。俺が守るって言っておきながら、結局お前を一番苦しめてきた。途中で洗脳が覚めたとき、真っ先にお前を安心させるために連絡するべきだったのかもしれないが、潜入して得られる情報もあるかと…、そのまま洗脳されたふりもしてきた…。お前の心を思うとそれが正解ではなかった…と今になってそう思った…。本当に…ごめん。」凱はその場から動かず、下を向いて話す。私はそんな凱の様子に、


「ねえ、やめてよ。そんなの。こうやって生き返ることが出来て、またみんなと一緒に戦うって気持ちも新たにしたところなんだし…。ねえ、凱。こっち見て。」私はうつむく凱の顔にそっと両手を当て、


「私は生きてる。そして凱も。だから、もうそうやって振り返るのは…やめよう。ねっ。」私は凱が目を逸らせないように、手に力を入れる。それを感じたのだろう、凱は、


「莉羽、分かった。」そうおちょぼ口で言うと笑顔で私の手を持って離す。そしてそのまま、私の右腕を引き寄せ、優しく抱きしめる。


「莉羽、ほんとにすまない。生き返ってから、俺がいなくなってからの事、莉月さんに全部聞いた。お前がどうやってここまでみんなを引っ張って戦ってきたか…、どれだけ俺を探していたか…、そしてどれほど孤独だったかを…。その間のお前の気持ちを考えたら俺は…。バートラル失格だな。」私を抱き寄せる凱の腕にぐっと力が入る。


「これで2度目だ。お前を守れなかったのは…。」責任感の強い凱だけに、今回の事がかなり精神的に堪えているのは、子供のころからの付き合いから容易くわかる。私は凱の胸に顔を押し当て、腕を回し、背中を優しくトントンと叩く。そして、


「ねえ、凱。私、強くなったよ。凱がいなくても戦えるように…、私、頑張ったよ…。

でもね、やっぱり…、いつも当たり前のように隣にいる凱が突然いなくなって…、探しても、探してもどこにもいなくて…、寂しさでどうしようもなく悲しくて苦しくて…、この世界から消えてなくなりたいと思った…。」私は凱がいなくなってからの切ない思いを言葉にしていくうちに、徐々に気持ちがこみ上げ、無意識に涙を流していた。凱は興奮して話す私を落ち着かせようと抱きしめながら、片方の手でゆっくりと頭を撫でる。


「莉羽、ほんとにごめん。でも…、もう2度とこんな思いはさせない。お前が生きる動機の中に俺がいるなら、俺は絶対に死なない。俺がこの世界にいる理由は、お前と共にある事だ。バートラルだからとか、そういうこと関係なく俺は…。」そう言うと凱は自分の人差し指を私の唇に押し当て、ゆっくりとその指にキスをする。



時が止まったかと錯覚するほどに、私はあまりに突然の出来事に身動きできず、何が起きているのかを理解するにも時間を要する。


『えっ?何?』何が何だか分からない私が呆然としていると、


「100歩譲ったんだ。誰が作ったルールか知らないけど、これくらいは大目に見てもらってもいいよな?」凱はそう言って、窓に向かって歩き出し、私に背を向けてそう呟く。私はその言葉の意味を理解したと同時に一気に体が熱くなるのを感じる。


『凱…。』私は体の力が抜けてその場にしゃがみ込み、自分の部屋に戻ろうとする凱の背中を見送る。

その時まさか凱の顔が、私以上に紅潮しているとは…、知る由もなかった。



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