【12支人~破壊神の僕~】
その男は何の変哲もない普通の人間だった…。しかし、彼は終わりなき不幸の回廊を進むような過酷な人生を生きていく中で、人間の恨み、妬み、怒り、憎しみ、殺意、嫉妬などの負の感情に心を支配され、ある特異な能力を持つことになる。その負の感情がその男に与えた力は強大であったこと、またその美しい風貌も相まって、ある意味カリスマ的な魅力が、彼の周りに多くの同志を集わせることになる。
特に彼に対する狂信的な魂を持つ者に、彼は神遣士の仲間の13人と同じように12支人として自分を支える使命を与え、それまで神遣士が布教させてきた信仰と対立するような宗教を広めさせた。詳しい事はよく分からないが、彼自らが神となり、世界を平和へ導くとの名目で、全世界を掌握しようとする目論見があった。
彼の出現により、人々の平和への考え方、また世界の思想が歪み始めたことに危機を感じた神遣士たちは、彼を粛清対象とするものの、その力があまりに強大な為に戦いは終焉を見ず、そこから500年に渡る神遣士vs破壊神という構図の「五星戦争」が始まり、5つの星は壊滅状態になってしまう。
壮絶な戦いを経て、その戦いにかろうじて勝利した神遣士側は、それぞれの星で生き残った人々を救済し、また新たな世界を作り出し、そして…再び回生を繰り返す世の中を形成した。それが現在の世界の仕組みなんだ。
今までざっと話してきたけど…、俺も細かい話までは聞き出せなかったから、かなり大まかな話にはなってると思うけど…、ある程度は理解できたか?ここまでの話が分からないと、この先の話が理解できなくなるから言ってくれよ。」凱は確認する。その言葉にまず最年少のリディアが、
「リディアでも分かるから、きっとみんな分かるよ。凱。」にこにこしながら反応する。
「えっ?リディアでも分かったのか…?あっ、そうなんだ…。」フィンが少し焦った顔をしてぼそっと言う。
「おい、まさかお前が分からないとかないよな?」ハルトムートが心配そうな顔でフィンを見ると、
「そんな憐れんだ顔で俺を見るなよ。大丈夫、分かってるよ。回生とか神遣士とか破壊神とか…。結局はあれだな…。この世界が危機に陥っているから、いよいよ俺たちの出番ってとこだろ?」フィンはちょっとどや顔で話す。
「おいおい、ほんとに分かってるんだろうな?」ハルトムートはいよいよ不安げな顔で言う。
「勿論だ。俺を誰だと思ってる?」
ハルトの心配をよそに、意味不明の誇らしげな顔が、ここにいる仲間たちを不安にさせる。その中でも最も大きい不安を感じているハルトが、
「それにしては端折りすぎだろ…。」ぼそっと呟く。
「まあ、着地点に間違いはない。世界の危機を俺たちが救うって事だけは…。」凱は苦笑いして続ける。
「破壊神の12人の僕に話は戻るけど…、これは俺が莉奈に洗脳されているふりをしていた初期の頃、奴らが話していたのをたまたま聞いた事なんだ。果たしてこれが真実かどうかはわからない。でも聞いてほしい。
破壊神は神遣士との戦いで敗北を喫した直後、命の火が消えるその時まで、最後の力を振り絞り、自分の力と意思を12個の『石』に封じ込めて、5星各地に分散させた。その石と適合した者たちが12支人と呼ばれるクラウディス、ロイ、ミディア、アレクシア、ヴァランティーヌ、ケイトの6人。彼らは破壊神を復活させようと全ての石を集め、適合者…つまり奴らの仲間を探してるらしい。
莉奈の話によると…、あと6人が力に目覚めていて、破壊神のもとに集まるのも時間の問題のようだった。」
「ちょっと待って、凱兄ちゃん…。この前の戦いで、敵は8人いたんじゃない?」リディアが気づいて声をあげる。
「そうだな。この前は8人いた。でも、ここにいる響夜さんは12支人じゃない。このアースフィアの前国王だから。」
「ああ、そうか…。」
「じゃあ、12支人ではないもう1人は…、誰なんだ?」ハルトムートが怪訝な顔で聞く。




