【守護石~死してなお、使命を…~】
どれほどの時間がたったのだろう。いつの間にか夕日が、世界の色を赤と黒に染め、このアースフィアに今日という日の終わりを告げ、燃え滾る炎のように真っ赤に染められた部屋の中で、3人は悲しみに打ちひしがれていた。
父と母は石の導きに私の復活を信じ、導かれるがままに動いたことで、この事態を引き起こした事に、がっくりと肩を落としていた。
「私も母さんも石の導きに従ったはずなのに…、なぜ莉羽は…、目を覚まさないんだ。」
父の目から悲痛の涙がこぼれる。母は冷たく固くなった私の手をとって、
「莉羽、隣に凱がいるわよ。あなたの大好きな凱が…。だから目を覚まして…。お願い、莉羽。」とめどなく溢れる涙もそのままに、
「せめて、手を握りましょうね、莉羽。凱もきっと喜ぶわ。」そう言って、私と凱の手を重ねる。
凱の手も私と同様、冷たく固くなり、死後硬直のため握らせることが出来ない。凱の手には、私が凱からもらった守護石が再び形を取り戻し、握られていたのだが、腕を動かしたはずみで2人の手の間に落ち、そこに私の血液が流れ、少しずつ石を浸していく。すると、その石に私の血液が徐々に染み込み、真っ赤に染まっていく。顔を押さえ泣いている莉亞と母の隣で、目を閉じ悲しみに暮れていた父だったが、ふと目を開けると目の前で起きている現象に目を見開く。
「おっ、おい。2人とも!」
父が2人に呼びかけると、2人は驚き、目を離すことが出来ずにその一点を見つめる。
「莉羽の血液が凱の石と反応してる…。」
私の体内から流れ出た血液全てを、凱の石が全て吸収し、いつの間にか私の心臓に突き刺さっていた剣もなくなっていた。
そして真っ赤に光る石が、宙に浮き、私の心臓の傷口の上で止まる。次の瞬間、その石は傷口から私の体の中に入りこむ。3人はその様子を固唾を飲んで見守る。その石が全部私の体内に入るや否や、全身の細胞の一つ一つが発光しているかのように、まばゆい光で覆われていく。
優しく柔らかい光に温かさも感じ始めたころ…、私はゆっくりと目を開ける。その見開いた目は、真っ蒼に輝いている。
「莉羽?」父が恐る恐る声をかける。
「莉羽、分かる?お母さんよ。」悲しみの涙が喜びの涙に変わる。
「莉羽、おかえり…。」莉亞は嬉しさでそれ以上言葉に詰まる。
私は無言で起き上がり、そして3人の顔を見る。悲しみのどん底から、最上級の喜びを迎えた3人が私を抱きしめる。
「莉羽!」
私はその拍子に全てを思い出す。メルゼブルクでの壮絶な戦い、凱の死、そして「破壊神」により息絶えた自分。私は父の顔を見てハッとする。そして、
「お父さん?なんでここにいるの?洗脳は?」私は状況が分からずうろたえる。そんな私を涙ながらに抱きしめ、
「ああ、お母さんが助けてくれたんだ。洗脳は、解けたよ。」そう言ってさらに強く私を抱きしめる。
「そっか…。お父さん、良かった。本当に良かった。」
母が私と父のやり取りを見て、父の隣で咽び泣く様を見て、目に涙が溢れる。
「お父さんの馬鹿…。洗脳なんかされて…。みんな、家族みんな苦しかったんだからね。」
私は小さな子供の様に父の胸を両手で叩く。そんな私を父は幼子にするように背中をさすってなだめながら、
「そうだな…。本当に悪い父親だ。こんなにも可愛い娘と妻を悲しませるなんて…。」そう言うと父は、妻と2人の娘を抱きしめ、
「私の大切な妻と娘。愛しているよ。だから、私が命に代えてもお前たちを護るからな。」その腕にさらに力が入る。
私は、父のその言葉の響きに思い出す。いつも私にこの言葉をかけてくれた人を…。
そう、凱の事を…。
「ねえ、凱は?凱はどうなったの?」
私は表情を一変させて聞く。黙ったままの3人の向こうに誰かが横たわっているのを確認した私は、その人物を見る。




