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【第7夜 後半①~人を疑う勇気~】

 目覚めると凱が窓の外を見ている。

「凱…。」私のか細い声に気づいて振り向く凱。

「目が覚めたか…。」

「ずっとここにいてくれたの?」

「ああ…。」

「ありがとう。」体を起こそうとするが、体が鉛のように重く、思ったように動かない。

「体、相当きつそうだな…。」そう言って、私が起き上がるのを手助けしてくれる。

「ありがとう。貧血かな…。だるさが抜けない。」

「飯食えば、少しは良くなるだろう。」

「そうだね。でも…、ここにこうやって生きていられるのもみんなのおかげだね…。感謝しかない。」私は涙ぐみながら天井を見上げ胸に手を当てる。

「ああ…。あの時、ガージリフトは自分の責任を感じて…、必死にお前を助けようとしていた。自分の命もなげうつ覚悟だったと思う。その思いに感化されたアーロは覚醒して、その能力はおそらくガージリフトを凌ぐものになったはずだ。」

「ほんとに?それはすごいね。あんなに小さいのにそんな凄い力を習得するなんて…。でも、それに比べて私ときたら、あそこで死んでいてもおかしくなかった。命を諦めようとしたんだもの。」

「普段、弱音を吐かないお前にそう思わせたあの状況は、かなりの極限状態だったと思う。普通の人間なら死んでいた。でもお前だからこそ、この世界に戻ってくることができたんだ。だから自信を持て。しかも魔導書は全て習得しているしな。」

「え?魔導書、習得出来たんだ…私。でも…、凱の力がなかったら、私は戻ることも、魔導書会得も出来なかったと思う。ほんとに、凱。ありがとう。」

「俺がお前を助けるのは当然のことだ。お前は俺の事だけ信じていればいい。気にするな。」

「うん、わかった…。」私はしばらく考えて、ある言葉を思い出し続ける。

「そう言えば…、あの時、凱、誰かと話してたよね?あれって誰?それとバート…、なんとかって言っていたけど、それって何?」

「お前、心層での記憶が残ってるのか?」ひどく驚いた表情の凱に、私も動揺する。

「心層?ってなんだか分からないけど、眠ってる間に何か聞こえたの。ところどころだから、あんまりはっきりと覚えてるわけじゃないけど。」

「お前は何か言われたのか?」焦ったように尋ねる凱。

「顔はよく見えなかったんだけど…、このまま死んでいいのか?って聞かれて、最後は…よく覚えていない。」

「そうか…。」少しほっとしたように見える凱の表情に違和感を覚える。

「凱は何を話していたの?」

「お前は誰だ?って聞かれただけだ。」

「そうなの?もっと話してなかった?」

「いや、特には…。」

「そうなんだ…。何者なんだろう…、あの人…。冷たい感じの中にも、何か私にヒントを与えてくれてるような、そんな感じもしたんだよね…。」

「そうか、それだけか…。」


 凱の意味深な言葉に引っかかっていると、クラウディスと莉奈が入ってくる。

「莉羽、大丈夫?俺、心配でいてもたってもいられなかったよ。でもほんとよかった…。」と言って、目に涙を浮かべて、抱き付こうとしているクラウディスを凱が止める。

「まだ回復していない。」凱はクラウディスを見ることなく伝える。それに対して露骨に不機嫌な表情を見せるクラウディス。それを横目に、

「ほんとうに…。よかった、姉さま。」と莉奈が突然泣き出す。私は少し間を置いて、

「ありがとう。あのとき、みんなの声が聞こえて、戻ってくることができたの。」

「魔導書は全部会得できたんでしょ?」莉奈が聞く。

「うん。ぎりぎり間に合った。」

「そっか…。」歯切れの悪い莉奈の言葉が気になっていると、

「莉羽様~。」という大きな声が聞えてくる。部屋に入ってきたのは、双子のミディアとリディア、アーロ、それに続いて仲間たちも入ってくる。

「みんな!」子供たちが私の周りを囲むと、

「目が覚めてよかった!莉羽様、死んじゃったかと思ったよ。でも、でもね、父様とアーロが頑張って助けたんだよ!」ミディアが言う。私は笑いながら、ミディアの頭を撫でて、

「そうだね。ミディアとリディアの父様と、アーロはすごいね!命の恩人だよ。」と2人を抱きしめる。隣にいるアーロは褒められたのが相当嬉しかったのだろう。恥ずかしそうに顔を真っ赤にして、

「莉羽…さ」まで言いかけたところで私は、

「莉羽でいいよ。」と笑顔で言う。すると、さらに顔を真っ赤にして、

「莉羽、生きててよかった。」その様子に私はにこっと笑って、

「ありがとう。アーロが祈ってくれたおかげで私は自分を取り戻して…、ここに帰ってくることができた。すごく感謝してるよ。」と言って手を握ると、アーロは真っ赤な顔から、さらに火が吹き出しそうな状態になって部屋を出て行ってしまう。

「待ってよ。アーロ~。」それを追いかけるように双子の姉妹が出ていく。

「ライバル出現か?いやいや、あんな子供を莉羽が相手にするわけ…。」クラウディスは自分の言葉に一喜一憂していて、周りにいる者たちは皆、笑いをこらえるのに必死だ。


「その後の調査はどうなってる?」凱がクラウディスに聞く。

「平行線だ。何も手がかりもない。ただ詳しいことはまだ分からないんだが、連れ去られた何人かが戻ってきたと、さっき第8の調査兵から報告があった。これからその者たちに話を聞く。」驚いて思わず声を出しそうになった私を凱が止める。

「莉奈、莉羽の着替えを取りに行ってくれないか?で、兄さんは莉羽の食事を持ってくるよう村の人伝えて。」

「お前はどうするんだ?」クラウディスが聞く。

「俺は村人に頼んでいたことがあるから、それの進捗を聞きに行く。」

「そうか…。」そう言うとクラウディスは私の方を見て、

「莉羽、待っててね。美味しい食事、直ぐに持ってくるから。」と言って、莉奈と部屋を出る。

「行ったか…。」凱はドアに近づいて、2人の足音が聞えなくなったのを確認してから私の傍に戻ってくる。


「ねえ、わざと2人を?」

「ああ、お前が何を言おうとしたか察しはついたが、うかつに口を開かないほうがいい。お前を洗脳したのは…、あの時、あの場所にいた誰かだと思う。兄さんも莉奈も何者かに洗脳されてお前を狙った可能性も0ではない…。だから、極力自分の考えを話したり、信用するのもやめた方がいい。」凱のその言葉にさっと血の気が引くような感じがする。

「あの中にいた人が?私を狙ってるの?」

「分からない。でも、何もかも分からないからこそ、俺たちは俺たちを守るために…、事実を受け止めるだけに徹しよう。」

「うん…、わかった。」私はこう言ってうつむく。すると凱が私に近づいて、自分の右手を私の頬に添えて、瞳をそらさず、

「莉羽…。俺を信じろ。俺は必ずお前を守る。だから不安は捨てろ。」その言葉に、キョトンとしている私の顔をみて笑いながら、

「俺は裏切らない。」そう言って部屋を出ようとする凱に、私はすかさず、

「それって、日曜のことも?」と聞くと、振り向いてほほ笑みながら部屋を出ていった。

『え?何?今の笑みはどういう意味?っていうか、別に私と凱は付き合ってるわけじゃないんだから、裏切るも何もないじゃない!私…、なんて事聞いてるんだろ…』


 命の危機にさらされながらも、「恋」に重きを置いてしまうのは、この時の私にはこの一連の事件が、所詮、夢の中の出来事にすぎないと高を括っていたからであると、今になって思う。

 


 そして、その会話全てが盗聴されているとは知らない私と凱は、この世界の大きな波に飲み込まれつつあることを想像だにしていなかった。

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