【運命の再会~現世でもあなたと…~】
父の声を頼りに、莉亞の力により瞬時にして移動した母は、アースフィアにおいて一番エデンに近いと言われる場所であるファイガルド山の山頂にいた。
その岩陰、父はかなりの痛手を負い、瀕死状態で横たわっている。母は周りを見ながら父のもとに進み、誰もいないことを確認すると、父を抱き起こし声をかける。
「響夜さん?」
まだ洗脳の渦中かもしれない不安もよぎるが、頭や胸部から大量の血が流れている状態から、洗脳の可能性は少ないと判断し、すぐさまできる限りの治癒魔法をかける。
母の呼びかけに父は何とか薄目を開け、声が聞こえるほうに視線を送る。
「莉月?」
何とか声を振り絞って出す声に、洗脳以前の夫の穏やかな声を思い出し、洗脳が解けていることを確信する母。
「響夜さん?私よ、そう莉月。大丈夫?何があったの?」
母は父の顔の血をふき取りながら声をかけると、父はわずかに目を開ける。そして、莉月の顔を確認し優しくほほ笑むと、思いがけない言葉をかける。
「エルフィシア…。ようやく会えた。長かった…。」そう言って、母を抱きしめる。
母はその古い名前を耳にし、はっと驚く。そして抱きしめられたことで体を電気が走り抜けたように、前回の回生前からの全ての記憶を思い出す。
「えっ?響夜さん?あなた…、もしかして…、グランディアードなの?」
母は父の顔を見返すと、そこには激痛に耐えながらも、優しく頷く父の笑顔があった。
グランディアードとは、前回の回生の際、神遣士であった母の最愛の人、世界の破滅を回避するため別れることを余儀なくされた、前アースフィア国王、その人である。
母は、まさかの事態に言葉を失い、その奇跡のような再会に涙する。その母の涙を見た父も、痛む体を何とか自力で起こし、母をもう一度抱きしめ、天を仰ぎ涙を流す。
「ずっと…、ずっとあなたを探していた。でもまさか、こんなにも…、近くに…。まさか、再びあなたと結ばれていたなんて…。」
それからしばし抱き合ったまま動くことができない2人。長年の時を経て再び出会った2人には、それを分かち合う時間が必要だった。
※※※
「まさか、あなたがグランディアードだったなんて…。嘘、信じられない。だって、ずっと、ずっと私もあなたを探してきたんだもの。」
「ああ、私はグランディアードだよ。エルフィシア。やっと見つけた…、最愛の君を…。」
「ああ、本当にあなたなのね…。グランディアード。現世でもあなたと出会い、あなたを愛することが出来たなんて…。」
「私たちの思いが回生を超越したんだ。でも…、私たちが離れ離れになった前回の回生発動のあの日、私は君を必ず見つけ出し、この手で幸せにすると誓った。それなのに…、こんなにも時間がかかってしまった…。
私は破壊神に洗脳され…、しかも最愛の娘を奴に差し出してしまった…。私はなんということを…。」
父の目に悔しさが溢れる。その目に母は、
「グランディアード…。破壊神の力は、想像をはるかに超越しているわ…、私たちにはどうすることもできないくらい…。だから、莉羽も…。」母は私の最期を思い出し、再び号泣する。
「何?莉羽が…?まさか…、そんな…。私たちの娘が2人も…。」父は母を抱きしめたまま、うつむく。
※※※
そして母は、私と凱の状況を父の心層に流し、
「現在の状況として、現世での神遣士とバートラルの莉羽と凱は、破壊神と莉奈によって…命を奪われ、アースフィアの家にその遺体を安置しているの。何とか、復活の手立てがあると信じて…、今、莉羽と双子で生まれてくる予定だった莉亞が2人の様子を見てくれているところ。」
「そんな…、凱までも…。ああ、私が洗脳されたばかりに…。事は最悪な事態に流れてしまったんだ…。私の力が及ばないばかりに…。」父は自分の非力さを嘆く。
「これはあなたのせいではないわ。自分を責めないで、響夜さん。
破壊神の力が別格なのよ…。莉羽は戦わずして命を奪われたの…。しかも一瞬にして…。
でも、きっと何か手立てはあるはず…。だって莉羽は神遣士、凱は眞守り人ですもの…。だから、必ず復活するわ。大丈夫。
莉奈の事は…、必ず歪んだ世界から救い出しましょう。私たちにならできる。
だって私たち、この何百億という中から、また再び結ばれることができたんですもの。そんな奇跡を起こした私たちに出来ないことはないはずだわ。」母は泣きながらほほ笑む。
父はそんな母の涙を優しく拭い、おでこに優しくキスをする。
「そうだな…。私たちは再び巡り合えた…。こんな奇跡を起こせるのは、私たちだから…だな。大丈夫。莉羽と凱は必ず私たちの手で復活させよう。」
そう言って再び抱き合う父と母。すると、2人の間に金色の光が生まれ、それが2人の体を包みこむ。驚き辺りを見回しながら、
「何、この光?」母が父に尋ねると、
「意識を以前保持していた能力に集中してごらん。おそらく、神遣士だったころの全能力を取り戻しているはずだよ。」
微笑んで話す父に促され、母は意識を集中する。
「ほんとだわ…。全ての力が戻ってる…。」
父も母も以前持ち合わせていた能力の全てを、運命の再会を果たすことで完全に復活させたのだった。
瀕死状態だった父は、治癒魔法により完全に回復したことを体を動かすことで確認し、にこっと笑い、再び母を抱きしめる。そして、
「愛してる、エルフィシア…いや、莉月。1000年以上の時を経ても、君への愛は変わらない。この先もずっと…永遠に…。
こうやって再び巡り合えたこの奇跡を神に感謝し、私たちの愛の力で子供たちを、そして世界を守ろう。」そう言うと、あの日と同じように母を抱き上げる。
母も遠きあの日を思い出し微笑みながら、父の両頬に優しく手を当てそっとキスをする。
父は微笑んでゆっくりと母を降ろし、それに応えるように優しい眼差しで母を見つめながら、母を強く優しく抱きしめ、そして今度は父から熱いキスをする。積年の思いが2人を強く結びつけ、今ここで再び、その愛を確かめ合う。
しばらくして、母はふとポケットから私が何となく持ってきて、母に預けていた家族写真を取り出す。
「何の写真?」父が覗き込む。
そこには、入院していた莉奈が家に帰ってきた時に撮った、強張った笑顔の父と莉奈、満面笑みの私と母の姿が写っていた。
「ああ、あの時の…。この時は洗脳間もないころで…、莉奈も私も酷い顔をしてるな…。」2人で昔を思い出しながら見ていると、突然その写真の中の莉奈の姿が消える。
「えっ?」2人は驚きのあまり、顔を見合わせ、写真から突如消えた莉奈のいた場所を見ていたが、他の部分も少しずつ変化しているのに気付く。
「響…夜さん?」先ほどまで目の下のクマが異様に目立っていた父の表情が、まるで別人の穏やかな表情に変わる。
「どういう事?」青ざめた顔の母の肩を抱き、父響夜が重たい口調で話す。
「おそらく、洗脳が解けた私の表情が元の私の顔に戻ったことから考えると…、莉奈の方は完全に…、ラーニーの手に落ちたという事なんだろう…。」
奇跡のような再会を果たした2人だったが、重苦しい雰囲気の中、莉亞の待つアースフィアの自宅向かう。




