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【メルゼブルク大戦㉖~命を…諦めるわけにはいかない~】

凱の死と莉奈の戦闘不能の情報が広まると、戦いは休戦状態になり魔物たちの動きは完全に止まる。壮絶な戦いを終え、それぞれ相当な深手を負った仲間たちは、凱の亡骸を前に、生きる屍と化した私の姿をただ見守るしかなかった。


「莉羽、大丈夫かな?」アラベルに手をつながれたリディアが、今にも泣きそうな表情で聞く。


「莉羽と凱は…、神遣士とバートラルの関係だから、離れる事は許されないはずなの。だから…、こんな状況はあり得ない、あっちゃいけないのよ…。」


 幼子を前に、涙を何とかこらえようとするも抑える事の出来ないアラベル。そのアラベルの肩を抱き、顔を涙でくしゃくしゃにしているフィン。


 凱の壮絶な死を目の前に、その亡骸を直視できないハルトムートをはじめとした仲間たち。と同時に、彼らは私たちを常に導いてきた先導者である凱を失ったことで、この世の終わりを意識し、絶望すら感じていた。


『凱を失った俺たちの力の弱体化は否めない。莉羽にも時間が必要だ。だとすると、俺たちに何が出来る?』


 コンラードが心層で仲間たちに語りかける。


『…。』


 誰も言葉を発することが出来ない。


 重苦しい空気が流れる中、フィンがようやく口を開く。


『ひとまず撤退しよう。莉亞、凱と莉羽の事よろしく頼む。』


『うん。』


 その声が合図になって、皆が撤退に向けてそれぞれの持ち場に移動し、兵士たちに撤退を伝える。


 撤退が告げられ、続々とそれぞれの星への帰還の準備が始まる中、横たわる凱と彼の亡骸から離れず、悲しみに暮れる私の傍で、その様子を見守っていてる莉亞が私に語りかける。


「莉羽、凱も一緒に一度アースフィアに戻ろう。」


莉亞は私の肩を抱いて頷く。私は莉亞に抱きつき、


「莉亞…。凱が…、凱が…。」未だ混乱の最中にいる私を、莉亞は力の限り抱きしめる。


「いや、待って莉羽。あなた、気づいてる?凱の事ばかりに気を取られていたけど、あなたもそんな怪我で…。早く治癒しないと命に…。」


 私の体は莉奈による攻撃で致命傷に近い傷を負っていた。しかし、凱の死のショックで自分の傷や痛みなんて、もはやどうでもよかった。


「莉羽、聞いて。凱はあなたを守る使命をもって生まれてきた。だから…、あなたを残して逝くなんてことはあり得ない。きっと救う方法があるはずよ。それを信じて…、今はアースフィアに戻ろう。あなたの体も一刻を争うわ。」


 私の頭を何度も撫でながら、私を興奮させないように優しく何度も、何度も同じ言葉を囁く莉亞。はじめはその言葉を受け入れられなかった私だったが、暫くたって、ようやくその言葉が心にストンと降りてくる。


『そう、凱が私を置いて逝くはずがない。そうだ、帰ろう。アースフィアに。』


私はゆっくり腕を緩め、莉亞の顔を見て、


「分かった。そうだね、莉亞。凱は私のバートラル…。だからそう簡単に死ぬはずがない…。私が神遣士だからこそ、凱はその使命を果たしているっていうのに…情けないね…。みんなを引っ張っていかなきゃいけないのに…。神遣士として、ほんとに情けない…。」


「莉羽、そんなことない。この状況で冷静でいられる人なんていない。


 でも…、私たちには希望がある。まだ…、凱の命をあきらめるわけにいかない。でしょ?そして私たちは…、


 あなたの命も諦めるわけにはいかないの、分かって、莉羽。」


 自分にも言い聞かせるように、莉亞はニコッと笑いながら話す。


 その莉亞の言葉に私はどれだけ救われただろう。私はすでに感覚を失った体をゆっくりと動かし凱の傍に寄り、


「凱、帰ろう。私たちのアースフィアに。」


そう言って凱の手を握る。すると、そこに先ほどまではなかった何かを感じる。


『何?』私はそっと、握られた凱の手を開いてみる。


そこには、見覚えのある『石』があり、次の瞬間私の意識は遠い過去に引き戻される。


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