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【メルゼブルク大戦㉔~凱の使命~】

 私は狼狽えながら体中に滴っていく凱の血を震える手で集め、それを凱の傷口に戻そうと、何度も、何度も試みながら莉奈に向けて叫ぶ。


「何やってるのよ、莉奈!今…、今、剣を抜いたら…、死んじゃう…。だめ…、凱。死なないで。誰か、誰か、この血を止めて…。お願い!凱を助けて…。」私は狂ったように泣き叫ぶ。


 少し離れた戦場から私たちの異変に気付き、この戦場に集まった仲間たちは私のその無意味な行動も止めることが出来ず、その場に立ちつくしている。その状況を把握した莉亞はすかさず、


「早く、止血を…。早く最大限の治癒魔法を…。」と周囲の能力者に呼びかけ、心層で他の戦場で戦う仲間を招集する。


『治癒魔法を習得している者は、今すぐに私のもとに来て!』


 莉亞の口調から緊急性を感じた仲間たちが、一斉にこの場に集う。そして、彼らはその惨状からすぐさま自分たちのすべきことを理解し、直ちに行動に移す。そして全員の力で治癒魔法をかけ始める。凱の体を治癒魔法による虹色のオーラが纏うにつれて、一見その魔力が確実に凱の体を快方に向かわせていると誰もが感じた。


 しかし、その魔法の効果が思ったように感じられない。なおも、あふれ出る血液を、私は呆然と見つめて、


『凱…。私を守るために…。』その時ようやく私は、凱がどのようにして私の盾になったのかを理解した。


『倒れた凱の体を私が支えている状況で、私の背後にいる莉奈が、私に向けて剣を振りかざすのを予測し、自分が盾になろうと自分と私の位置を予め逆転させたのだと…。あの時すでに、凱の怪我はひどい状態で、意識も朦朧としていたはずなのに、私が気づけなかった攻撃を察知し、次の行動を判断したなんて…。凱…、自分を犠牲にしてまで私を…。


生きて!死なないで!凱…。』私は心層で叫びながら、ふと思い出す。


『そうだ…。この状況に…もうどうにも手立てがない…。やっぱりあれを使うしか…。』


すでに意識が朦朧としている凱の胸の傷に、私は震える手をあて、再び禁じられた魔法を唱え始める。


すると、それまでショックのあまり身動き1つしていなかった莉奈が我に返り、


「あんな体で、私の動きを察知して莉羽を守るなんて…。もう自力で起き上がることだって難しいはずだったのに…。そこまで莉羽の事を…。」莉奈は唇を噛みしめ、私を睨みつける。


 しかし、私はそんな莉奈の事はどうでもよかった。目の前にいる最愛の人を助けるためなら、今は自分がどうなろうと関係ない。私は決意を新たにして、禁忌の魔法に集中する。


 凱はその間ピクリとも動かず、もはや死人のように静かだった。おそらく凱の状態をみて、彼が生きているなんて誰1人として思えない、そんな状態であった。


「凱、約束破ってごめん。」私は禁忌魔法の最終段階の呪文を唱えるため、右手を凱の額に当てる。すると疾風が私の顔をかすめ、その瞬間私に狙いを定めていた莉奈が、私の頭上から剣を突き刺す。


『油断した…。』私は両手で莉奈の攻撃を阻止しようとする。


しかし、確実に当たるはずの攻撃を感じない。私は、


『もしや…。』と再び最悪な状況を予想し、頭上を見上げると…。


「凱!」生気なく倒れていたはずの凱が、再び私の盾となり、莉奈の攻撃を全身で受け止める。


「またしても…。」


 そう言う莉奈の腹部には、凱が瞬時に魔法で作り上げた聖剣が貫かれていた。


莉奈がその場に倒れこむ。


それと同時に凱も地面に倒れこみ、その拍子で莉奈の剣が再び凱の体に深く突き刺さる。


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