【メルゼブルク大戦⑲~融合~】
凱が自問し、戦況を確認していると、敵側の中心的存在の莉奈が瀕死状態で離脱したことを受け、12支人をはじめ多くの魔物たちが戦場の中心であるこの場に集まり始めたのに気づく。長引く戦闘の中、莉奈の一派もかなりの深手を負い、響夜、ヴァランティーヌにいたっては何とか立っているような状態だった。
そして負傷により退避を余儀なくされていた私は、凱とその不信な男が対峙しているとき、莉亞による治癒魔法を受け、八割がたの回復を果たしていた。
「莉亞、ありがとう。体がほぼ元通りになった。」
「良かった。あなたがいないと、この戦いは何の意味もない。私が出来る最善を尽くしたまでよ。」莉亞は疲労の色をにじませながらも、にっこりと笑顔を見せる。私は頷くと、今いる場所から凱のいる場所まで一瞬にして移動する。
「凱?どうしたの?」私はその場で動こうとしない凱に声をかける。すると、驚いたように凱が、
「莉羽か…。体は大丈夫なのか?」
「うん、莉亞のおかげでほぼ回復してる。」
「さすが莉亞だな。この時間であれほどの怪我を回復させるなんて。」
「あの子は…、いろんなものを乗り越えたから…。」
「そうか…、お前もそうだけど…、早く聞きたいな。俺がいない間にどうやって力の解放を果たしたのか。」
「うん。さっさとこの場を片付けて話そう。」私と凱は目を合わせると同時に戦闘態勢に入り、私は戦場に自分の思いを伝える。
「あなたたちがこの世界を手に入れて、具体的に何をしようとしてるかなんてどうでもいいけど…、私たちは、ただこの星域の平和を取り戻したいだけ。あなたたちがめちゃくちゃにしたこの世界を、救いたいだけなの。だから、私たちは全力であなたたちと戦う。覚悟して!」
敵に向けた言葉でもあるが、これはむしろ、この瞬間を戦場で苦しみ戦う仲間たちに向けての私なりのエールだった。倒してはまた現れ、倒しては現れる、無数の魔物との終わりなき戦いに、兵士たちの心が持たない…、そう感じた私は無意識にそう叫んでいた。
すると私の言葉から少し遅れて、戦場に兵士たちの声が次々と上がる。
「そうだ、俺たちはこの世界を護るんだ。」
「俺たち以外にこの世界を護れるものなどいない。」
「そうだ!俺たちがやるんだ!」
次第に戦場にその声は響き渡り、その兵士たちの声に逆に力をもらった私は、凱との打ち合わせ通りに双術をかける為、2人の術を融合させようと凱の手を取ろうとしたその瞬間、ロイが私たちの間に割り込む。
「お前たちの力を融合させるわけにはいかない…。」そう言うと、ロイが私と凱の間にバリアのようなものを生みだす。
「何が何でも阻止せねば…。」先ほどまで何者かに憑かれていたクラウディスも、私と凱の力の融合を阻止するため、頭を抱えながらゆっくりと上体を起こし呟く。
「融合?そこまで焦っているところを見ると、2人の力の融合は、お前たちにとって相当都合が悪いってわけだな…。じゃあ、何が何でも2人には成し遂げてもらわないとな。」別の戦場から、ロイの存在を確認して移動してきたフィンがそう言うと、残り僅かな力を振り絞ってロイに切りかかり、ずっと抱えてきた思いを告げる。
「ロイ。ようやくあんたに会えた。あんたが俺たちを裏切ったって分かってから、ずっとあんたの事ばっか考えてたよ。なんで正義感の塊みたいなあんたが…、そっち側にいるんだってな。
俺はこの国を、民を守るためならと、なりふり構わず全力で考え、行動するあんたを尊敬してたんだ。そんなあんたと一緒に…、この騎士団を支えていることに誇りを感じていたんだ。それなのに…、それなのに、あんたは世界を滅ぼそうとする悪魔の手下に成り下がった…。」フィンは目に涙を浮かべ続ける。
「あのとき…、俺の両親が死んだあの時、あんたは俺とアラベルに言ったよな…。
『今日から俺がお前たちの兄だ』って。
俺はその言葉をずっと信じてきたよ。誰からも慕われ、信頼され、まじかっこいいあんたの弟分になれて、俺は本当に嬉しかったんだ。それが俺の自慢でもあった。でもまさか、そんなあんたにこんな形で裏切られるなんてな…。
これほどまでにあんたを慕っている俺たちを、いとも簡単に裏切る人に、裏切られた奴の気持ちなんかこれっぽっちもわかんないだろうけど…。
うっ、うっ。俺とアラベルがどんな気持ちでいたなんか、あんたには…、あんたには…。うっ。うっ。」そう言って泣き出すフィンの隣にアラベルが現れ、
「お兄ちゃん、さっきまでの熱弁、とっても良かったのに、途中から可愛い弟キャラ炸裂してて、説得力も何もかもなくなってるって。」アラベルは兄であるフィンの頭を撫でながら、ロイを睨みつけ、
「ロイ兄、私って…、見る目ないかも…。以上。」そう言い放ったアラベルの顔は、怒りで真っ赤になっている。
「おい、アラベル、なんだよ。今の?」フィンは意味が分からないという表情で聞く。
「おいおい、フィン。今のは俺にもわかったぞ。そっとしておけ。」この状況に、さすがにハルトムートが心配して声をかける。
「なんかもう、ばしっと言ってやるんかと思えばアラベルの奴…。」フィンはまだぶつぶつ言っている。
そこに割って入った私は、
「フィン。今は戦いに集中してもらおうかな?いい?」ニコッと笑って言うと、
「あっ、ああ。」フィンは年下の私に言われ、少し顔を赤らめて返事をする。
「私と凱は今から2人で1つの術をかける。双術っていうんだけどね。さっきの様子からしても、私たちの術の融合を彼らは恐れているみたいで、彼らが猛攻を仕掛けてくることは容易に想像できる。それを引き続き阻止してほしい。みんなもよろしくね。」フィンは、途中まで難しい顔をしていたが、とりあえず阻止することが自分の使命だと分かると笑顔で、
「承知した。莉羽、任せろ!」
そう言って、自分の剣にはめ込まれた『石』に祈りを込める。




