【メルゼブルク大戦⑱~悪念~】
「莉亞…。私のことは大丈夫…。お父さんとの戦いを優先して…。」
「いい、今はもうしゃべらないで。治癒魔法かけるから。」そう言うと、莉亞は私の体を魔法を使って宙に浮かせ、少し離れた場所にいるエドヴァルドに、
『エドヴァルド!援護頼みます。』エドヴァルドの心層に告げて、私を連れて戦場から離脱し始める。
『承知しました。』エドヴァルドは私と莉亞を援護しながら、魔物への攻撃も同時に行い、凱と共にあたりの魔物を殲滅していく。
私が安全な場所に移動したのを確認した凱は、神術を使って途中から姿の見えなくなっていたクラウディスの所在を確認するが、反応が全く感じられないことに苛立ちを感じ、
『クラウディス!俺はここにいる。逃げてないでさっさと出て来い!』
クラウディスの心層に語りかける。
一方、凱の洗脳が解けるはずがないと思っていたクラウディスは、
「なぜ、あやつの洗脳が解けているというのだ…。この私があれの力を過信したとでもいうのか?
ん?いや、待て…。まさか…こやつらの力が…、そこまで上がってきたというのか?」と、にわかに信じられないという表情で呟く。
『ん?お前、クラウディスか?』
その小さく呟いたクラウディスの声も拾い上げた凱の耳は、彼の口調の変化をしっかりと捉え、クラウディスの姿を確認しようと辺りを見回していると、突如凱の頭上に割れんばかりの雷鳴が轟き、クラウディスがその姿を現す。
その姿は紫のオーラに包まれ、先ほどまでのクラウディスとはまるで別人のいで立ちだった。
「お前…、本当にクラウディスか?」
凱は感じたことのない、その不気味なオーラに額から汗がにじみ出るのを感じながら話しかける。
「…、そういうお前はバートラルだな?
あれがうつつを抜かすほどの男と言うからどれほどかと思えば…、話にならん。哀れな。理解不能だ。興が冷めた、直ちに戻る。」踵を返して立ち去ろうとする。
「なんだ…、お前?クラウディスじゃないな?何者だ?」凱は声を振り絞って問いかける。
凱には確信があった。なぜなら、目の前のクラウディスに明らかにそれとは別の強大なオーラを感じ、得体のしれない恐怖を覚えたからだ。クラウディスに憑依したその人物は振り返り、
「お前ごときに名乗る必要はない。つまらぬことで力を使ってしまった。まあ、戦ってもよいのだが、私の力に耐え切れず、この匣を潰すかもしれんからな…。
何だクラウディスの力はこんなものか…、使えぬ奴だ。
それに…、全くあれがこれほど低級なものを欲しがるなど…、言語道断だ。」
凱を見ながらぶつぶつ呟くと、その人物はクラウディスの体を残し、紫の光になって姿を消す。
その気配が消えて、ようやく凱は自分の体を自由に動かすことが出来るようになった。
『何なんだ、さっきの奴は…。こんなに強い悪念は初めて感じた…。まさか、あれが…?』




