【メルゼブルク大戦⑭~『祈り』~】
『みんな…。』その光景に、自然と目から涙があふれてくる。
見渡す限り、血を流し倒れる多くの兵士が重なり、山のようになっている。彼らが息絶え絶えになっているその向こうに、こちらを睨むセージガルドの姿があった。私はすかさず近くに倒れる衛兵のもとに駆け寄りその手を取る。
「莉羽様。この世界をお救いください…。あなたは私たちの希望の光です。どうか、どうかこの世界を…。」そう言うと衛兵は、静かに目を閉じ永遠の眠りにつく。
「あっ、そんな…。死なないで、やだ…、お願い。ねえ、目を開けて。」
私は何度も何度も呼びかけるが、返事が返ってくることはなかった。その一部始終を見ていた凱が、私の腕を掴んで首を横に振る。私はその事実に耐えられず、
「私のせいで…。私に力がないばかりに…。ああ~。」
私は自分の目の前で命を失った兵士を前に、ショックのあまり立っている事が出来なくなり、その場で号泣する。凱はそんな私の肩に手を置き、その後ゆっくりと立ち上がる。そして遠くを見つめ、
「莉羽…。泣いている暇はなさそうだ。」
私はその言葉に顔を上げる。すると、すでに戦闘態勢に入ったセージガルドが何やら術を仕掛けようとしている。
私は右手の拳を握りしめ、左の手で涙を拭い、
「ごめん。みんな…。」そう呟いてから、
「凱。戦いは…、お願い。」一言告げる。私のその言葉の意味に気づいた凱は、
「分かった。」と頷くと、すぐさまセージガルドめがけて飛び込んでいく。その速さは洗脳以前とは別格と言っても過言ではない。それくらい凄まじい早さだった。
「凱…。ありがとう。」そう言って、私は静かに祈りに入る。そう…、ただ祈る。
石の加護のないマグヌス、魔力の未熟なリディアはもう立ち上がることも出来ず、地面に横たわっている。直視しがたいその姿から、祈りに力が入る。
『前回の回生の時に果たせなかった母の思い、凱の思いを私が受け継がなければ…、そう、全ては私にかかっている。私の行動全てがこの世界の人々の運命を握っているんだ。だから…、私はここから逃げるわけにはいかない。私なりの戦い方を実践する…。』
そう、『祈り』だ。
それは莉奈との戦いで気が付いた。様々な星を行き来するようになって、私は多くの仲間に出会い、共に笑い、悩み、時に苦しむこともあった。でも必ずそこには、お互いを思いやる『心』があった。相手の立場に立って、その人の為にどうすることがベストか…、それを考える『思いやりの心』があった。
しかし、今までの莉奈の言動を考えると、彼女にはそれが皆無だ。自分の事しか頭にない、自分さえよければ良い、その為に人がどうなろうとは考えず、むしろ自分のためにその人が動けば良い、それくらいに考えている。そんな奴は世の中に数えきれないほどいるが、莉奈はまさにその典型だろう。
ここが私と莉奈の根本的違いで、私には仲間からの私を思う『心』があり、私もみんなを守ろうとする『心』がある。
そう、全ては人を思う心からの『祈り』…。凱に助けられたあの光、それも私を救おうとするまさに凱の『心』だった。
そう今こそ、私は生きとし生けるもの全てに『祈り』の力を…。
そして『祈る』。




