【メルゼブルク大戦⑬~凱の温もり~
2人の姿が私の脳内から消え、現実に引き戻される。
『今のが、前回生の直前の凱の記憶だとすると…。』
頭を巡らしていると、私の体に入り込んだ凱の結晶が私の体を突如操り始める。
強制的に目を閉じられ、心を無にし、ただ祈る、ただただ祈るよう動かされる私。すると心の中に小さな光が生まれる。その光は小さいながらもとても暖かく私の心を満たしていく。それが徐々に大きくなり、やがて私の全てを満たしていく。
『なんて、温かく、優しい光なんだろう。』
そして、私は心層でその光が何かを知る。
『そういうことなのね…、凱。』
私はその光を自分の中で最大限に拡張させ、そして目を開ける。
すると、私が目を閉じているわずかな時間で、凱と莉奈が、今にも婚姻の契約が確定する最後の儀式、誓いの口づけを交わそうとしていた。
「待って!!!!!」私は叫ぶ。
すると突然、凱の手から爆音と共に閃光が放たれ、その光が莉奈を縛り付ける。
「うう~。」莉奈は唸り声を上げる。
「おのれ~。」締め付ける光は力をさらに強め、莉奈の体に食い込んでいき、やがて体から大量の血が噴き出る。そしてその光はそのまま莉奈を上空高く連れ去り、視界から完全に消え去っていった。
「え?何が起きたの?」私は一瞬何が起きたのか分からなかった。私が呆然と空を見上げていると、遠くから聞きなれた、でも懐かしい、愛する人の声が聞こえてくる。
「莉羽!!!!!」
凱の声だ。凱が私の名前を呼びながら、私の元に走ってくる。その凱の表情に事を理解した私は、
「凱!!!!!」
叫びながら凱に向かって今までにない位、全力で走り出す。そして、凱まであと数メートルの所で私は思いっきり強く凱に飛びつき、その体を抱きしめる。会いたくても会えなかった、その辛い日々の思いの強さと比例するかのように強く…。
「莉羽!!!」凱は私を全身で受け止める。
そして力強い腕で私を抱き上げ、そして力の限り抱きしめる。凱の筋肉質な腕、温もり、匂いが私を包み込む。
『凱だ、本物の凱だ。』私は嬉しさのあまり凱の胸に顔をうずめる。
凱は私を抱きしめながら、片方の手を私の頭にそっと置き、ポンポンとして、
「莉羽、ごめん。俺…。」凱は声を震わせる。凱の胸の中で私は言葉を発しようとするも、嬉しさと安堵感で号泣するあまり声を出すことが出来ない。
「莉羽、俺がお前を守るって言いながら1人にして…。」そう言った凱が、私をさらに強く抱きしめる。
私はその力に、私を護るという使命を果たせなかった自分の不甲斐なさを悔やんでいる凱の心を感じ取る。責任感が強いが故に、その思いはさらに強い。私はそんな凱に言葉をかけなければと何とか言葉を発する。
「凱、私は大丈夫…。大丈夫だよ。今回も凱がくれた結晶が…、私を導いてくれたよ。こうやって凱が戻ってきてくれて、それだけで十分。だから自分を責めないで。」凱の腕に再び抱きしめられた幸せを実感し、溢れる涙をそのままに、私がそう伝えると、
「ああ…。」凱は、私を抱きしめた手をゆっくりと緩め、涙でぐちゃぐちゃな私の顔を見つめる。
私はそんな顔を見られないように凱の胸に顔をうずめると、その姿に凱はもう一度私を強く抱きしめる。
「髪が赤い…。力の解放に成功したのか?」優しく問いかける凱。
「うん。まだ完全じゃないけど…。」
「俺がいない間にいろんな経験を積んだんだな。」凱は私の頭を撫でながら言う。
「そう、いろんなことがあった…。いろんなこと…。」そこまで言いかけると背後に不穏な気配を感じる。
「今、それを聞いてる時間はなさそうだな。」凱はそう言うと、私をゆっくり自分の後ろに移動させる。
「莉羽、手早く片付けるぞ。俺がいない間のこと、早く聞きたいからな。」
凱はそう言って私に微笑んでから、表情を一気に戦闘モードに切り変え身構える。私も凱と背中合わせになって背後の敵に向かって剣を構える。
そんな私の目の前に、信じがたい光景が広がっていた。




