【メルゼブルク大戦⑫~前世での凱の記憶~】
【前回より】
そう自問自答している私の中で、突如、凱の記憶が頭を占拠する。
『神遣士は今度の回生を実行するつもりなのだろうか…。私自身、神遣士にはあのアースフィアの国王と結ばれてほしいのだが…。しかしそうなると…、この世界が滅びることになる…。
なぜ、神遣士は愛する人と結ばれてはいけないんだ…。神遣士にも特定の誰かを愛する権利はないのか?』
凱の心の声が私の脳内に響き、続けて聞きなれた声が聞こえてくる。
『凱、凱はいる?』母莉月の声だ。
『どうされました?エルフィシア様。』答える凱。
『私は決めました。今度の回生を滞りなく進める予定です。』母は決意を持った表情で凱に伝える。
『本当によろしいのですか?あのお方とのことは…?』凱が苦渋の表情で尋ねる。
『これが、神遣士として生まれた私の運命なのです。私とあの方と結ばれることでこの世界が滅んでしまうなんて…、私には到底耐えられません。あのお方とも、そのようにお話ししたところです。』
『そうでしたか…。』
『凱。私は此度の件で回生後に神遣士の資格を失うでしょう。でもあなたはおそらくバートラルとしての資格を保持したままでいられると思います。ですから、神遣士である私の最後の願いを聞いてもらえますか?』
『もちろんです…。』凱はこみ上げるものを何とか抑える。
『おそらく責任感の強いあなたは、最後まで私を守れなかったと自分を責めると思います。それが私の身勝手さが引き起こしたものであったとしても…。本当にごめんなさい。でも…、
私は次なる神遣士に果たせなかった私の思いを伝えたい。回生などない、人々が何者にも操作されない、人が人として自分の意志で生きていく、そんな世界を…実現してほしいのです。そして、その意志を引き継ぐ神遣士をあなたの力で支えてほしいの。これが私の最期の願い。』
『エルフィシア様…。』そう言った凱の目には堪えきれず、涙が光る。
『泣かないで。私はあなたのようなバートラルに仕えてもらって、本当に幸せでした。心からありがとう。』
『私こそ、エルフィシア様のように、人々の幸せを常に考え、自らの幸せを投げうってでも、神遣士としての使命を果たそうとされるお方にお仕えすることが出来て…、幸せでした。必ず、次の神遣士にエルフィシア様の思いを伝え、誠心誠意お仕えし、護り抜くことを約束いたします。』




