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【メルゼブルク大戦⑦~積年の恨み~】

 突然、自分の心の中に私が入ってきたことで驚いた莉奈が、


『莉羽?なんであなた、私の中に…。』


『こういう状況になってから、莉奈とちゃんと話してないから…。戦いながら話そうとしたって、どうせ無理でしょ?だから強制的に入り込んだ。』


『話すことなんて1つもないわ。早く出て行きなさいよ。莉羽。ああ、気持ち悪い。』


『そうはいかない。こっちは聞きたいことがたくさんあるんだから…。ねえ、莉奈?あなたは一体、何がしたいの?』


『何がしたいって、ラーニー様の理想とする平和な世界を創造したいだけ。』


『そのラーニーの理想とする平和って何?』


『あなたには到底理解できないわ。時間の無駄。さあ出て行きなさい。』


『そういうわけにはいかない。私、神遣士だから…、責任があるの。だから教えて。』


『そう言えば、そうだったわね。あなたが神遣士だなんて…、笑っちゃうわ。しかも凱がバートラルだなんて…。初めて聞いた時、この世界の不平等さを呪ったわよ。


 前神遣士である「同じ母」から、私は長女として生まれたというのに…、私には何の力もなければ、資格もない。でも…、妹であるあなたは神遣士。しかも私は病弱で、いつ死んでもおかしくない状態。でもあなたは、異常なまでの健康体で、いつも馬鹿みたいに飛び回っていた。


 私が入院して生死を彷徨っている間、あなたは学校で私が味わったことのない友達との楽しい学校生活を送っていて…、あなたはいつもその中心的存在だった。友達に囲まれ、家族や凱に支えられ、日々の生活を楽しんでいる、私はそんなあなたが…、憎らしかった。私にないもの、私が本来得るはずだったもの、全部持っているあなたが…。

 いや、それは今に始まったことじゃない。ずっと昔から、事ある毎にあなたは私の欲しいものを全部奪っていった。そして、全て手に入れて…、私がどれだけ苦水を飲まされてきたか、あなたには分からないでしょうね。そんなの積年の恨みを抱えて生きていくのはもう限界。


 私はあなたの姉であることがもう耐えられない。もうずっと昔から…、頭がおかしくなりそうなくらいの日々を過ごしてきた。それなのに…、毎回私はあなたの姉…。一体何なのよ…。


 だからラーニー様に出会ったとき、私は救われたの。この負のループから私を救い出してくれる救世主が現れたんだと…。私を一番に必要としてくれる、そして守ってくれる、そんなかけがえのない存在。


 この世に未練なんてないわ。むしろ、この不平等な世の中が無くなればいい。そうすれば、この世界全ての人がラーニー様のもと、平等の魂を授けられる。私は私と同じように苦しんでいる人たちを救い、理想の世界に連れて行ってあげたいだけ…。』


 私は小さい頃から莉奈の事を、わが姉ながら綺麗さと可愛さの両方を兼ね備えている、同じ女性として心から羨ましいと感じる存在だった。体力だけが自慢のような私に持っていないものをたくさん持っていて、姉妹なのにどうしてこうも違いがあるんだろうと思う位に、病弱ながら莉奈は輝いていた。


 しかし、今私の目の前にいるその姉の顔は、私に対する恨み妬みで満ち、あの頃の輝きは全くと言っていい程なくなっている。私はその表情に恐怖を感じながら、


「そんな風に思っていたなんて…、訳が分からない…。毎回?理想の世界?狂ってる…。」と無意識に呟いていた。


『さあ、もう分かったでしょ。あなたと話すことなんてもうないわ。さっさと私の中から出て行きなさい。気分が悪くて…、今にも吐きそうだわ。』


 私はショックで自分を取り戻せないでいた。まさか、莉奈が私をそこまで憎んでいたなんて…。


人とコミュニケーションを取る中で、人は日々多くの言葉を使っている。しかしその中で「憎む」という言葉はそう口から出るものではない。それがいとも簡単に、姉の口から飛び出したことが信じられないでいる。


 莉奈の心層から戻ってきてからも私は心が落ち着かず、戦いに集中することができなかった。

それを好機と見た莉奈が、続けざまに攻撃を仕掛けてくる。私は我に返り、その攻撃をかろうじて躱すが、疾風の風魔法で切られた真紅の髪、数本が風に舞い、その様はまるで血しぶきのように辺りを色付け、周りの仲間たちの焦りを生んだ。


『大丈夫。私は無事よ。』仲間を安心させるために私は心層に語りかける。


「油断したわね。そんな精神状態で私に勝てるかしら?」


 莉奈はそう言って、すぐさま風笛魔法を繰り出し、全てを吹き飛ばすような暴風による攻撃と、耳を劈くような高音を私の頭の中に反響させ、思考を停止させる。


 それに気づいたエドヴァルドは、クラウディスの攻撃の合間に、音の道筋を真空にして無音にする術を使い、莉奈の攻撃を無力化させ私を救い出してくれた。


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