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【第7夜④ ~死線の修行にて…出会う~】

 今回ガージリフトに教わる攻撃魔法は、リンク魔法により魔力の覚醒を促す、魔力値上げが前提になる。まず、ガージリフトとリンク魔法を唱えることにより、自分の魔力をガージリフトのレベルまで引き上げることが必須条件ということだ。

「まず、魔導書を読んでください。どの魔法でもそうですが、それを習得しようとする者の潜在魔力が、その魔法と見合っていなければ、その過程で命を落とすことがあるので、魔導書を読んでも無意味になります。しかし、莉羽様にお会いした時すでに、この高ランクの魔導書に耐えうる力を感じたので、この点は大丈夫ではないかと思われます。ですから安心して読んでくださいね。読み終わったらまず、私の手に莉羽様の手を重ねて目を閉じてください。そこから魔導書の会得を開始します。」ガージリフトは自分の手を差し出す。私も黙読が終わると、その手に自分の手を合わせ、目を閉じる。


 莉奈は夢の中でも小さいころから体が弱く、ここでは自分の身を守る魔法を身に着けることしかできなかった。彼女が持つ本来の能力は、新魔法の創造であるが体の弱さ故、なかなか魔力を上げることができず、今はまだ、初歩的な防御魔法の段階で止まっている。


 私と言えば、幼少期から体の弱い莉奈の分まで力をつけるようにと、父に言いつけられてきた。父としては、後継ぎに男の子を望んでいたが、莉奈を生んで間もなく母がこの世を去ったことから、私を後継者にすることに力を注いだ。また、私と次期国王となるクラウディスの政略婚を進めるために、幼いころから私たち姉妹を、王宮の敷地内の邸宅に住まわせ、その機を狙っていた。その計略は身を結び、王宮内の誰もが私とクラウディウスの婚姻を、当然のことと考えている。そして、莉奈は凱との結婚を望んでいる。(あくまで私の推測にすぎないが…。)夢の中でも私の本意ではない方向に、話が進んでいるのだった。


 しかし、この国、国民を守りたいという気持ちは、小さいころから培われた責任感で強く持ち合わせている。少し頼りないクラウディスを支えるのは、自分しかいないだろう。シュバリエでもこの国でも夢とはいえ、自分がこの世界を救える力を持っているのなら、全力をもって、敵にも、そして自分自身とも戦っていきたい。そう自然に思わせる仲間と力がこの国にはある。だから、これから始まる修業も絶対に乗り越えようと自分に強く言い聞かせ、私は自分の魔力がガージリフトに近づくその時を待った。

 すると、

「今から、魔導書を1ページずつ会得していきます。自分のペースで大丈夫なので、ゆっくり心で解読していってください。そのページの内容を全て会得すると、自然とページがめくられていくので、自分の集中力と精神力の限界に挑戦してみてください。この修業は、莉羽様を危険にさらす可能性もあります。その時は私の判断で中止させていただきます…。心の準備は大丈夫ですか?」とガージリフトが会得の開始を告げる。

「はい。」私は緊張しながら答える。額にじわっと汗がにじむ。

「では、始めます。」そう言うと、ガージリフトも目を閉じ瞑想状態に入る。私は、ゆっくりと魔導書を読み解いていくが、1ページ目から体に重くのしかかるような圧を感じ、頭がくらくらとしてきたような錯覚に陥る。何とかそのページを完全に会得すると、ガージリフトの言ったように自然にページがめくられる。次のページは、体を何かが突き抜けていくような感覚を。、何度となく感じ、立つのもやっとという状態で、私は幾度となく膝をついてしまう。その度に修業を見守るクラウディスや凱たちが、私に手を差し伸べようとするが、ガージリフトの子供たちがそれを阻止する。彼らは父が合図をするまで助けてはいけないという父の言いつけを守っているのだ。私の苦しむ様子に唇をかみしめ、見守るしかできない。


一緒にその修行の様子を見ている村の男が口を開く。

「この修業は成功すれば偉大な力を得られるのですが、ページが進むごとに上がっていく魔力値に適応できなければ、命はもちろん、魂もここに帰ってこれなくなります。莉羽様の精神力と体力と魔力のバランスが崩れる前に助けないと…。」この言葉で、さらに周りの空気が張り詰める。


「ふぅ~。」自然に息が漏れる。おそらく残り5ページくらいまで来ただろうか、一瞬気が緩み全身の力が抜け、全く力が入らずに完全にしゃがみ込む。目の前がグルグルと回っている。体中から尋常ではない汗が出始め、みんなが呼ぶ声もだんだん遠のいていく。視界もぼやけ始め、吐き気がひどい。 


『このまま、この状況に身を任せれば楽になれるんだろうか…。「抗うから辛くなる」ふと河川敷の少年の言葉が浮かぶ。自分を全てのものから解放し、自由になる。そうすれば楽になれるかもしれない。そうだ、もうやめよう。こんな辛い思いまでして、夢の中の私は何をしようというのか…。そう、これは所詮夢。このまま続けた先に、身も体もぼろぼろになり、いずれ灰のようになる自分の姿が容易に想像できる。ごめん。みんな。ありがとう。みんなに支えてきてもらったけど…もうだめだ。…今までありがとう。凱…。』経験したことのない試練を前に、全てを捨てようとする私。それほどまでに体は悲鳴を上げ、心はこわれそうになっていた。


 私の中から希望の光が消えそうになった刹那、最後のページがめくられ、そして本が閉じられる。時を同じくして、凱が私の体を支え、手を握り、私の名前を呼ぶ。

「莉羽!」

同時に微動だにしないガージリフトの異変に気付いたアーロが、父のもとにかけよる。

「父さん。父さん、どうしたんだよ。あの人が、あの人が死んじゃいそうだよ…。」

双子の姉妹も父の手を取る。

「なんということだ。ガージリフトがこんなことになるなんて…。」そう言った村長の胸倉をつかんだクラウディスが、今にも殺しかねない勢いで言う。

「おい。ガージリフトはどうしたというのだ?莉羽は、大丈夫なんだろうな?」

真っ青な顔をした村長は慌てて、

「おそらくガージリフトは洗脳されております。あの男はご存じかと思いますが、とてつもない魔力の持ち主です。それを凌ぐ力の保有者が彼を洗脳したとしか考えられません。」と衝撃的な言葉を放つ。

「何?洗脳だと?」ショックを隠し切れないクラウディス。


 凱に支えられた私は、凱の呼びかけにも全く反応出来なかった。心臓がかろうじて動いているのを確認した凱は安堵するが、依然危険な状態は変わらない。


 すると突然ガージリフトが我に返り、周りを見渡す。横たわる私の姿を見て、事の重大さに気づき、

「莉羽様!」ガージリフトが急いで私のもとに駆け寄る。

「なんということだ。私は…。」

「お前は洗脳されていたようだ。お前の洗脳はお前の魔力でおそらく解けたのだろうが、莉羽様の洗脳はいまだ解けていない。」村長が声を震わせ話すと、

「…。このままでは莉羽様が…、アーロ、力を!」ガージリフトが呼ぶと、

「はい、父さん!」と、アーロも私のすぐそばに駆け寄り、祈り始める。ピクリともしない私の様子に焦りの色が濃くなる2人。それを見守る仲間たちはこの予断を許さない事態に息をのむ…。


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