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【第7夜③ ~双子の魔法使いと少年アーロ~】

ヴァイマール村は、メルゼブルク各地からのみならず、他国から、「聖なる泉」に洗礼のために、またその美しさ故に、観光で訪れる人々で年中にぎわっている。私たちは現況と被害状況を聞くために、村の集会所に向かう。

「今回の拉致事件でのこの村の被害状況ですが、村の住人37人、洗礼に来た者たちが75人、観光で訪れた人は7人となっています。そのうち、魔獣の目撃証言が関わっていると思われるものが60%、目撃者がいる前で消えた例は40%になっています。性別、年齢にこれといって特徴はなく、無差別に拉致しているものと思われます。」王族である私たちを前に、少し緊張した様子で話す村長。

「魔獣は複数で行動?それとも単独ですか?」皇兵団の部隊長が尋ねると、

「魔獣の多くは、同じ種だけで集団行動する場合が多いのですが、今回は多種で行動しているのが目撃されています。昨夜拉致された村民は、5種類の魔物に襲われ、村の者で応戦したのですが、今まで遭遇したものとは比にならないほどの強さを持っています。こちらは7人で戦いましたが、歯が立たず目の前で連れ去られてしまいました…。」村の青年がそこまで言うと、悔しそうな表情で下を向いてしまう。

「連れ去られたのは、この者の妻です。先月結婚したばかりなのですが…。」隣に座っていた若者が、青年の肩に慰めるように優しく手を置く。

「絶対に救い出す…。」拳を強く握るその姿に強い決意を感じた私は、その青年の前に立って、

「必ず取り戻しましょう。」と約束する。それを見ていた全ての者が賛同し、頷く。


 その会議では、ヴァイマリアを囲む樹海全域に、今までの倍の人数を配置し結界を張る事、泉への人の出入りをしばらく中止することが決められる。それに伴い、第8皇兵団と私たちは、しばらくこの地での調査を続行し、同時進行で私と莉奈の訓練も行われることになった。

すると、

「この辺りに、全ての魔導書を記したといわれる大魔導師「ザラード」の聖廟があると聞いたのが…。」凱が例の青年に聞く。

「ええ、あるという話は聞いたことがありますが、実は誰もその場所を知らないのです。」話をしているとクラウディスが、

「ザラードって、この国史上最強の魔導師って人だよね?」と、興味津々。

「最強すぎて、この国を乗っ取られると思ったその当時の国王が、2級以上の魔法使い100人と魔石に閉じ込めて封印したという話ですよね…。」莉奈が髪を指でくるくる回しながらも鋭い目で話す。

「そうですね。でも…、彼が存在した証拠の書物も、いつの間にか大部分が紛失…、残りは盗難にあったという話です。ですが、彼の話はもはや伝説になっていますので、その「聖廟」も果たして実在するのかも確かではないのです。」付け加えるように村長が話す。


「偉大なる魔導師…。もし実在していたなら…、会ってみたかった。」凱はその村に伝わる魔導書を見ながら呟いた。その姿を横目で見ながら、クラウディスがその部屋を出ていく。


 次の日、早朝から第8皇兵団が調査のため馬を走らせる。

私たちは、この聖なる地に伝わる魔導書をもとにした、新たな攻撃魔法を編み出すために、この地で一番の、攻撃系魔法主であるガージリフトの元を訪れる。彼の家系は、代々大工の仕事で生計を立てているとのことだが、聞くところによると、この村の建物のほとんどが彼の先祖が作ったものであった。

「うちの家系は、建築用の木材を森から切り出してくるんですが、森には魔獣がうようよしているので、自分達の身を護るために攻撃魔法を習得しなければならなかったのです。

私の先祖は攻撃魔法のレベル最高値、種類を長い年月をかけて習得し、次の代へと引き継いできました。その修行の中で、私は今までの魔力量の常識をはるかに超えるレベルの力を得ることに成功しました。でもその値まで持って行くには、命がけの修業が必要でした。親から子へ、私が父から教えを受けたように、厳しい修業ではありますが、私自身も3人の子供たちに、それを引き継いでいかなければと思っています。」と熱く語る彼の子供は、9歳になる双子の姉妹ミディアとリディアと10歳になる男の子アーロ。彼はその3人を呼ぶ。


 ミディアとリディアは2人ともに、ストレートの髪の毛を腰のあたりまで伸ばし、ミディアは右側のこめかみ辺りを三つ編みし、リディアは左側を三つ編みしている。また、ミディアは髪の毛が淡い紫、瞳が黄色で、リディアは髪が黄色、瞳が紫で、瓜二つの2人の違いは髪と瞳で、皆覚えているようだ。もう一人の子供のアーロは、小さいころに両親を亡くし、アーロの父の兄であったガージリフトが養子として育てているとの事だ。彼の魔力が桁外れであることにガージリフトは気づいていたが、ここではあえて口には出さなかった。髪の毛は燃えるように赤く、瞳は青い空のように真っ青で、3人並ぶとなかなかカラフルな子供たちである。

「ねえ、姉さまは強いの?」双子の姉、ミディアが私の手を引きながら尋ねる。雰囲気や目つきから、少し勝気な負けず嫌いな印象を受けるが、目がぱっちりとしてお人形のようで、とてもキュートな少女である。

「まだ強くないの。だからみんなの父様に教えを乞いに来たの。」と言うと、妹リディアのほうが、

「父様はすごい力を持ってるの。この国で一番強いのよ!」と笑顔で言う。一方のリディアは、姉に比べると穏やかで、物腰が柔らかい印象を与える少女だ。

すると、アーロがつまらなそうな顔で、

「あんたみたいなやせっぽちな人が父さんの修業を耐え抜くことなんてできないよ。今まで何人もの強そうな人が修業に来たけど、みんな厳しい修業の最中に、自我を失いそうになって…、命だけは何とか父さんがとりとめたけど、魔力はほとんど失ってしまったんだよ。だから、あんたみたいな、やせっぽ姉ちゃんに、父さんの修業を乗り越えることなんてできるわけがない。」と言う。するとそれを聞いていたガージリフトが、アーロの頭に手を置いて目をつむり、何かを呟くと、アーロは立っていられなくなったのか、その場に座り込んで、どうやっても動くことができなくなってしまった。

「お前はそこで頭を冷やしていなさい。」と静かに息子を戒める父ガージリフトは、私のほうを見て、

「息子の非礼をお許し下さい。」と頭を下げたまま上げようとしない。そんな彼の姿を見て、

「彼は私のことを心配してくれたんです。だからお気になさらないでください。それに…、彼の言葉で私も気を引き締める事が出来ました。逆にお礼を言わなければ。」と言って、アーロの頭に手を置いて、ガージリフトの魔法の解除呪文を唱える。ようやく立てるようになったアーロは、真っ赤な顔をしたまま、私の顔を見ることができない。すると、

「本当に申し訳ありません。莉羽様の御心に感謝いたします。ほらお前もちゃんと謝りなさい。」とガージリフトはアーロの頭をポンと叩くとアーロが、

「ごめんなさい。」とふてくされながらようやく口を開いた。

「ううん。アーロ、心配してくれてありがとう。でもね、私、負けないから、見てて!」とウィンクすると、アーロはちょっと顔を赤らめながら、

「うん。」と嬉しそうに答える。傍にいる仲間たちは、私たちのそんなやり取りを優しく見守り、そしてこれから始まる修業に気を引き締めなおす。

「ガージリフトさん、お願いします。」私は修行を前に気合を入れ、一歩前に出る。


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