【第12夜① ~支えてくれる仲間の心~】
莉亞と私の祈りによって、メルゼブルクに飛ばされた約12万の兵士たち。莉亞は術の負荷があまりに大きく、術の最後に気を失ってしまいそのまま倒れこむ。
「莉亞!」私はすぐさま莉亞に回復魔法を施すが、莉亞はシュバリエからメルゼブルクへの今までに無い大規模な転移の術と、拉致された人々の洗脳解除の術とを同時に行い、異能力と精神力、体力の限界に達してしまい、なかなか意識を取り戻すことが出来ない。
「莉亞は自分の力の限界を試したいと言っていた…。自分がどれだけできるか、自分が莉羽のどれだけ力になれるかを知りたかったんだ。だから石が埋め込まれ、魔獣にさせられた人々の洗脳解除も率先してやっていた…。だから気に病むことはない。」コンラードは自分の娘を抱きしめ、回復術をかけながら静かに語る。
「莉亞…。」私は、なかなか意識を取り戻せない莉亞の顔を見ながら、
「いや私のせいだ…。ごめん、莉亞…。私に力がないばかりに…。莉亞だって、まだ力に目覚め始めたばかりで不安でいっぱいだっただろうし、皇子の事があって精神的に辛かったはずなのに…。私ばっかり甘えて…。神遣士なのに…。」私はうつむき涙を何とかこらえる。
「莉羽…。」
その様子を近くで見ている仲間たちは、私の心境を思い計ると、なかなか声をかけることが出来ないでいた。数々の裏切りと、最愛の人たちとの別れ、しかしそんな中でも「神遣士」としての使命を果たさねばならぬ重圧。仲間たちはそんな私の心に重くのしかかる様々なプレッシャーが、自分たちの想像以上だということは分かっているが、それを理解し共有できるのは、凱以外にいないことも分かっていた。だからこそ、安易な言葉で慰めることは出来ないと考え、しかし何も出来ない自分たちに歯がゆさも同時に感じていた。
しばし重苦しい沈黙のあと、私の頭を優しくなでてくれたのは、コンラードだった。
「莉羽…、こんな事を君にするのは大変失礼なんだと思う。でも、それを承知で私はさせてもらう。許してくれ。」そう言うと、コンラードは私の顔を両手を挟み込むようにして、目を離さずに続ける。
「莉羽が莉亞の姉なら、私は莉羽の父親も同然。能力は君に及ばないが、これでも自分の力の限り子供たちを自分なりに愛情を以て育ててきた。シュバリエ、メルゼブルク、アースフィアでの本当の父親の代わりは出来ないが、ここでの父親になることは出来る。だから、そんなに頑張らないで、甘えたいときに甘えてほしい。1人で抱えるには、この状況は重すぎる。大丈夫、俺がいる。しょい込みすぎるな。」少し涙声で話すコンラードはそう言うと私をぎゅっと抱きしめる。その口調は愛に満ちていた。
彼の言葉に皆、頷きながら、
「そうだ、莉羽。俺たちがいる。」フィンが口火を切る。
「莉羽、大丈夫。みんな分かってるから。」アラベルが続く。
「1人になるな、俺たち仲間だろ。」口数の少ないハルトムートをはじめ、皆次々に声をかける。
私はコンラードの言葉、そして仲間の励ましに、さらに涙が溢れそうになるが、上を向いて決して流れないように堪える。そしてそのまま天井を見上げた状態で皆に伝える。
「みんな、本当にありがとう。こんな情けない私に…、ついてきてくれて…。神の声はいまだに聞こえないし、すぐに泣くし…、情けない。ほんとにごめんなさい。」何とか声を振り絞る。
自分にここまで自信が持てない原因、それはそう、私が今まで一度も神の声を聞いたことがない事に尽きる。神遣士であるのにも、関わらず…。もし、私が本当に神遣士であるならば、これまでに1度や2度は聞こえても良いはず…。それなのに…、私には聞こえた試しがない。自分の存在意義はいつもそこで揺らいでいるのだった。
でも私が何とか踏ん張れる理由。それは、今までに何回も同じようなシチュエーションで涙を流してきた中であっても、その都度支えてくれる仲間たちの私を信じてくれるその「心」があるからだった。泣きたくなる時、逃げ出したくなる時、そんなの今までに何回もあった。それでもなお、私が今ここに立てている理由は、それ以外にはないと断言できる。自分がどれほど仲間に恵まれ、支えられているかを感じ、この仲間たちに出会えた奇跡と感謝を神に捧げ、私は顔を上げる。
すると、意外な人が私に声をかける。




