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【第11夜⑩ ~命をあきらめるわけにはいかない~

 私は戦いの渦中で、石の埋め込まれた魔獣たちがファータの異能者の攻撃を受け倒れ込み、しばらくすると人間の姿に戻る瞬間を何度か目撃した。私は一瞬目を疑ったが、驚きはそれだけで済まなかった。その後、彼らがまた魔獣に姿を変えたのだ。そして、その後ろで術をかけ直す石の適合者の姿を確認し、確信する。


 魔獣は石の適合者によって姿を変えられた、各星々から拉致された人々で、適合者により操られていること。しかも人間に戻った人たちは、子供であったり、女性であったり…、本来戦場にいるはずのない人たちばかり…。そして、再度かけられた術により再び魔獣に変えられてしまっていること。その事実を知り、自然に涙が零れ落ちていくのを感じる。


 私は心層を通して、皆に伝える。皆の顔が一瞬で曇る。


「どうしてこんなひどいことが出来るの…。なんで…。」


 同じ光景を私の側で見ていたフィンが、流れる涙をどうすることもできず、立ちつくしている私の肩をそっと抱く。


「莉羽…。あの石の適合者を、俺が必ず殺る。だからここで待ってろ。」そう言って、敵陣に向かおうとする。私は咄嗟にフィンの腕を掴んで、


「だめ、フィン!見て、上を…。」と頭上を指さす。


 頭上には、黒く渦巻く大きな闇がブラックホールのように巨大な口を開けていた。そしてしばらくすると、その巨大な穴はファータの能力者、騎士団の団員たちを容赦なく吸い込んでいく。上空に舞い上がっていく仲間たちは、その途中、体同士がぶつかり合い、骨が折れ、手にした武器で仲間を突き刺してしまい、それにより命を落とすものもいる。私たちはその悲惨な光景に言葉を失い、戦うことすら忘れてしまう。


 しばらく私はその光景を見る事も出来ず、その場にしゃがみ込み、溢れる涙をどうする事も出来ずに顔を両手で押さえる。


「くそ~、何なんだよ。どうすりゃいいんだ…。」泣き崩れる私を抱き寄せるフィンが拳を握りながら頭上を見上げ叫ぶ。


 

私は為す術もないこの状況に、正直全てを投げ出したくなる思いでいっぱいだった。自分たちが立てた作戦、それにより傷つく仲間、そして命を落としていく多くの兵士たち。戦う気持ちだけはあるものの、何の経験も実力もない、単なる16歳の少女に一体何ができるというのか…。自分の運命を受け入れたはいいが、こんなにも多くの命を失う結果に、自分が先頭に立つ意味すら分からなくなる。


『もうやめたい…。こんな戦い…。私なんかにできるわけがない。』涙はさらに溢れる。


 すると、自分の意思ではない力が働き、私は無意識に顔を上げ、頭上を見上げながら、今まさに命を落とす仲間たちの為に祈りを捧げるように手を合わせる。操られているような感覚に私が戸惑っていると、フィンが、


「どうした?莉羽?」と尋ねるが、私は返答することが出来ず、そのまま祈りに入る。すると、手を合わせたその中が次第にじんわり温かくなり、祈りが終わるころには、その中に明らかに「何か」がある事を実感する。私が手をゆっくりと開く…、その中には、青い光を放つ、凱からもらった結晶があった。


『なんで?』私は急いで自分のポケットにしまってある結晶を確認するが、そこにはない。という事は、結晶は自分の意思で私の手のひらに…。


『凱が戦えって言ってるんだ…』


私は何かに突き動かされるかのように、心の中で声を放つ。


『泣いてばかりいるわけにはいかないんだ。前回、ヴァランティーヌの裏切りに再び絶望を感じた私だけど、もう何度も腐るわけにはいかない!仲間の命をあきらめるわけには…絶対にいかないんだ…』凱からもらった御守りをぎゅっと握りしめ、


「もう涙はここに置いて行く。強くありたい、強く。何ものにも負けない強さを…。」


私は力強く立ち上がり、心に誓った言葉を無意識に発する。それにはさすがのフィンも驚くが、彼も立ち上がり、


「お前がやるなら、俺もやる!」そう言って頭上を見上げる。


私はすぐさま莉亞の心層に指示を送る。


『今、魔獣になってしまった彼らを攻撃するわけにはいかない。とにかく仲間の周りに結界を張って防御にのみ集中して!』


『分かった、莉羽。でも…、防御だけじゃ、先に進めない…』


『うん、分かってる。とりあえず、今、吸い込まれてる人たちを何とか救いだしながら結界を張るから、莉亞も少し力を貸してほしい。その後、この戦場から全員で離脱する。』


『えっ?全員?前回の人数にシュバリエの騎士団を合わせたら…、かなりの人数だけど…。』


『うん、分かってる。でも、私も一緒にやるから大丈夫!

それで実は…さっきから、アーロの気を感じるの。何かを訴えてる。メルゼブルクで何かあったかもしれない!莉亞、メルゼブルクに行こう!』


『了解したけど…、出来るかな…。』莉亞はざっと計算しても12万を超える人数を、瞬時に移動させる事が出来るのか不安しかない。


『大丈夫だって。私に任せて!』そう言って、数日前に莉亞から教えてもらった通りに術をかけ始める。


私の声に少し安心したのか、


『ありがとう。人数が多すぎて…、私1人じゃ…と思ってた。助かる。』


莉亞も祈りに集中して、術の精度を上げていく。


『みんな、行くよ!メルゼブルクに!』


私の声と共に、白い光が徐々にあたりを包み込み、吸い込まれつつある人も含め全ての人が魔法の国に飛ぶことになる。


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