【第11夜⑨ ~同士討ち~】
警備が厳重になっているという報告通り、魔の山の麓周辺には、中級レベル以上の魔獣がうじゃうじゃ湧き出たようにうろついている。だが、私たちの見立て通りファータの中級能力者はことごとくそれらの魔獣を殲滅していく。
ほぼこちらに被害はなく、そのまま突き進んでいくと、魔獣のレベルが格段に上がり、よく観察するとその魔獣たちは胸に小さな石が埋め込まれ、目の色もその石の色と同じ色になっている。そして砂煙の中、魔獣の後ろに人影が見える。その者の胸には、魔獣と同じ色の石がはめ込まれたネックレスが見える。その様子からして侮れない雰囲気が漂い、私たちはファータの能力者の層をより厚くして戦う。
しかし、その人物が操っているのか、その魔獣たちの動きは徐々に早くなり、ファータの民が術をかける隙を狙って襲い掛かかり、その攻撃を受けた者たちが次々に倒れこんでいく。
「早いっ。このままじゃ、みんなが…。」私は焦りを感じ、こういう時こそ落ち着いて戦況を確認しようと周りを見渡すと、魔獣からの攻撃を受け、倒れていたファータの兵士が1人、また1人と立ち上がり始める。
「敵の攻撃が当たらずにすんだのか?」同じように周りを確認していたフィンが疑心暗鬼に呟くと、立ち上がったファータの能力者たちが、突如全員振り返り、私たちに向けて攻撃を始めた。戦況は一気に変わり、ファータの能力者はもちろん、その後方に構えるシュバリエ騎士団の場所まで敵と化した仲間たちのの攻撃がおよび、その悲鳴がその場に響き渡る。
「何が起こった?」前方の異変に気付いたエドヴァルドが馬を走らせ、前線の様子を見に行く。
すると、ファータの民の目の色が、その後ろに控える魔獣の目と同じ色で光り、血の海の中を我れ先にとこちらの軍勢に向かって攻撃する惨状を目の当たりにする。
「なんということだ…。」あり得ない状況に、急いで戻ってきたエドヴァルドがその状況を伝える。
「敵の前線にいる適合者の力は、自分に攻撃を仕掛けた相手を操る能力のようです。そして、その石を与えられた魔獣は、その適合者と同じ力を持つことが出来る。そして前線で魔獣の攻撃を受けた者たちが、その適合者に操られることで仲間への攻撃が続けば…、同士討ちが広がります…。」エドヴァルドが緊張の面持ちで話す。
それを、表情を変える事のまずないジルヴェスターが、怪訝な顔をして聞いている。
『どうする?敵に操られているからといって、仲間を攻撃することなんてできない。』莉亞が私の心層に話しかけてくる。
『…。それがね、莉亞。心して聞いて。衝撃はそれだけじゃなさそう…。胸に石が埋め込まれた魔獣は…、おそらく拉致された人たちだわ…。』




