第11夜⑤ ~亡き王妃クリスティーヌ~】
煌びやかに着飾った私たちは、宴の開かれる饗宴の間に案内される。私たちの登場に、場は一気にざわつき、席についていた者たちが一斉に席を立つ。
シュバリエ王ジョセフ3世も例外ではなかった。
「これは、これは、なんとお美しい。今宵の宴はここ数年で一番の華やかさで…。皆さんのこの美しさに、わが国の兵士たちの士気も上がります。我が民に皆さんのその美しいお姿を是非披露していただきたい。よろしいでしょうか?」
そう話す王の目は、私たちの晴れやかな姿に見とれているようだ。私は極上の笑顔で、
「もちろんです。」そう答えると、王は私の手を取って、王宮の内庭に集まった兵士たちにその姿を見せるべく、饗宴の間のテラスに誘う。すると莉亞が、
「シュバリエ国王。この様子を王宮に集まった全兵士に見てもらうことが出来ますが、いかがされます?」と提案する。驚いた王が、
「そんなことが可能なのですか?」と尋ねると、
「はい、画像を…。」と独り言のように祈りを始める。すると、内庭の上空、王宮の東西にそびえる塔の前、王宮の門、兵士が集まる全ての場所にこの映像が映し出される。突然の事に驚き、騒ぎ出す兵士たち。そして、王宮のあちこちから、
「おお!」という歓声とともに、
「王妃様?あれは王妃様じゃないのか?」との声もちらほら聞こえる。私は少し気になって兵士たちの声に耳を傾けてみると、あちこちから同じような声が聞こえている事が分かる。
私が兵士の声に夢中になっていると、噂の本人はそのことには気づいていないようで、
「莉亞、また1つ、力を使えるようになったのね。」母は莉亞に優しく微笑んでいる。
「イメージしたものが、術として体現できるようになってきたみたい。」莉亞は嬉しそうに話す。
私は2人のやり取りの向こうに、母をじっと見つめる視線を感じる。それは、国王ジョセフⅢ世のものだった。私がしばらく横目で彼の様子を見ていると、
「クリスティーヌ…。」と王がつぶやく。
彼は思わず漏らした自分の言葉に、まさかと口を押さえるが、そのまま母を見つめて微動だにしない。
私は先ほどの侍女の話、兵士たちの声から全てを察した。母莉月が亡き王妃クリスティーヌに酷似しているのだと。王位継承式で、突如右腕を失い、失意の底にいた彼は、その妻王妃クリスティーヌの献身的な愛で支えられることで、王としての自分の使命を全うするべくたゆまぬ努力を続け、シュバリエに安寧の世を築き上げてきた。
そんな王妃が謎の死を遂げ、受けた喪失感のあまりに自我を失い、死地を彷徨う事数か月、何とか周りの支えにより、再臨したシュバリエ王だが、クリスティーヌの再来を思わせる母莉月の風貌に衝撃を受けるのは当然の事だった。
しかし、今は感傷に浸る暇はない。集まった兵の士気を上げるために、亡き王妃に思いを馳せる国王に、私は心苦しさを感じながらも声をかけようとする。すると、王の側近と思われる、しかし王の身の周りの準備等もしているところを見ると、側近兼侍女という感じのなかなか珍しい立場にある、王と同年代位と思われる女性が私よりも先に声をかける。
「王、莉亞様の準備が整ったようです。」そう言って、王の意識がこちらに向くよう促す。
「!」王は彼女を見て我に返り、一度ちらっと母を見てから、
「ありがとう。」穏やかにそう言って、私たちの画像を見る為に集まる大勢の兵に向けて言葉をかける。
それまで飲めや、歌えや、踊れや状態だった兵士たちも、王の言葉に一気に静まり、皆スクリーンに注目する。




