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第11夜③ ~見知らぬ女の正体~】

 私たちもその後部屋に戻り、すぐさま会議の開かれる門衛棟に向かう。その途中、フィンたち騎士団メンバーと合流し、王には話していない今までの状況説明をする。


 私が久々にハルトムートの顔を何とはなしに見ていたら、突然ファータでの黒フードの中にいた、見知らぬ女の顔が思い浮かんだ。今なぜ思い出したか分からないし、単なる思いつきでハルトを苦しめることになるのも違う…と思い、話すかどうかしばらく迷っていた。しかし、これまた何故だか分からないが、今話すべきという確信が次第に生まれ、結局話すことにする。


「これは…、アレクシアだ…。」ファータに現れたその女性について事細かに話し、最後にハルトムートの心層にその女性の映像を送り込むと、ハルトムートの顔から一気に血の気が引いていく。


「ハルト!お姉さんの名前…、アレクシアっていうの?」私は食いつくように尋ねる。


「ああ。」ハルトの表情はさらに曇る。


「莉亞と異能の修行をしていた時、ロイの言葉が心層に聞こえてきて…、その時一緒にいた女性に『アレクシア』って呼びかけてたの…。」


「そうか…。間違いないな…。」ハルトは唇をぎゅっと噛んで、固く握った拳で壁を殴る。あまりの衝撃に壁にひびが入り、その手からは真っ赤な血が流れる。


ビンゴだった。あの見知らぬ女はハルトムートの姉、アレクシアだった。


「どうして…。よりによって…。ああ、アレクシア…。このままでは、戦わなければならないということか…。」そう言って肩を落とすハルトに、誰も声をかけることができない。それでも私は何とか彼に希望を持ってほしいと、


「言おうかどうか迷ったけれど…、もしその人がお姉さんだったとして、次にあの人たちと戦う時にその事実を知るのは耐えられないかと思ったの。だからもし、私の判断で今ショックを受けていたら…、ごめんなさい。でも…、彼女は私たちに一切攻撃はしてきてないの。おそらく洗脳されているだけだと思う…。だからその洗脳さえ解ければ、お姉さんは取り返せると思うから…、だから希望を捨てないで。」


うつむいていたハルトムートは、私の目を見て、


「ありがとう、いろいろ考えてくれたのはよくわかるよ、莉羽。敵であろうが、生きていることが分かったんだ。それ以上に嬉しいことはない。それに生きていれば…、希望はある。」そう言ったハルトムートの強く握られた拳から、姉を救おうという強い意思が感じられた。周りで私たちの会話を聞いていた仲間も、ハルトムートの様子に安堵の表情を見せる。



「あれ、そういえば、凱は?」いつもなら私の隣にいるはずの凱の姿がないことにフィンが気づく。


「…ここ最近、この国でも大規模な地割れってありましたか?」莉亞が聞く。


「ああ、経験したことのない位の大きなものだったよ。地域はかなり限定されてて…、何と魔の山周辺。しかも揺れ方も不可思議で…。それが何かあるのか?もしかして凱が関係してるのか?


って、その前に…、莉亞さんだよな?初めまして、俺はシュバリエ騎士団長のフィン。よろしく。それにしても、双子だけあってやっぱり似るもんだな。」フィンは1人納得して、握手を求める。


莉亞は突然求められた握手に快く応じ、


「よろしくお願いします。」にこっと笑い続ける。


「先ほどの凱の話ですが…、そうなんです…。あの大規模な地割れがアースフィアでも起こって…、莉奈と一緒に地割れのなかに…。それから連絡が取れなくなってます。」下を向く私の頭を撫でながら説明する。


フィンは驚き、うつむいた私の落ち込む姿を見て、そっと肩に手を置く。そして、


「あいつのことだ。間違いなく生きてる。お前こそ、希望を捨てるな。」そう言って、私を励ますフィンがいつになく頼りがいのある存在に感じ、私はフィンの目を見つめながら、


「はい、頑張ります。ありがとうございます、フィン団長。」そう伝えるとフィンは私の顔を見て顔を赤らめる。


そして気恥ずかしさを誤魔化すようにふざけて、

「あいつがいないと張り合いがねえな…、いろんな意味で。それと…、その…、なんだ…。もう俺たちは仲間だし…、敬語とか丁寧語とかやめにしないか?そんな他人行儀な感じじゃなく…。」と、なぜか直視せずに、横目で私の顔を見ている。


周りはその意図を理解し、驚きつつ、にやにやしながらフィンを見る。しかし当の私は、


「え?どういう意味ですか?えっ?もう敬語とか、使わないほうがいいんですね?」と相変わらずの鈍感ぶりを炸裂している。


その光景に周りは笑いをこらえるのに必死だ。私は訳が分からず、


「?」としながらハルトムートを見ると、


「分からなくていいよ。そのままの莉羽でいてくれ。」と言って、顔を背けてクククと笑う。


真意が伝わらなかった事でフィンが肩を落としていたと、莉亞から私が聞いたのはかなり経ってからの事である。


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