【第10夜⑩ ~心のコントロール~】
私がファータで生まれて間もなく、母である王妃がこの世を去り、母なしの私を本当の妹のように可愛がってくれた乳母ヴァランティーヌ。あんなにも私を愛し、支えてくれた彼女がなぜ…。エルフィー皇子との結婚についても親身になって考えてくれた。悲しさの涙が徐々に悔しさに変わり、落胆とともに怒りがこみ上げてくる。
いろんな感情で訳が分からなくなってきたところに、以前夢の中に出てきた老人の顔がなぜか思い出される。そしてそのやり取りが私の脳内を巡る。
『降りるなら、奴が目覚めぬ今…』あざ笑い、そう言い放ったあの老人の言葉。
『この言葉って、私がこの戦いから降りることを前提にした言葉だよね。確かにいろんなことがあって…、頭の中も、心の中もぐちゃぐちゃだけど…、最初から降りるなんて選択肢はないのに…。なんかムカムカする…。しかもなんで今あのじじいの顔を思い出さなきゃいけないのよ…。
ああ、もうほんとに…、ヴァランティーヌ、何やってんのよ。こんなに、こんなにも信じて頼りにしてたのに…。もう、一体何なのよ。みんな…。しかも奴って誰よ!で、凱はいつ帰ってくるのよ…。ああ、もう…。』
私はあまりに大きすぎるショックで、頭の中がいろんな事でぐちゃぐちゃになり、考えがまとまらなくなっていた。全ての事が、もう何でもいい、どうでもいい、どうなっても私には関係ない…、この場からいなくなりたいと心の底から思い始めていた。目から大粒の涙が零れ落ちる。
そんな私を心配した莉亞が心層に語りかけてくる。
『莉羽、落ち着いて。あなたの心が今、怒りと憎しみに飲まれそうになっている。ここで自暴自棄になっちゃダメ。私がいるから…。絶対に裏切らない私が…。だから、自分を取り戻して…。』
莉亞が一生懸命思いを込めて私に伝えると、それに続いて、
「俺もいる!莉羽、負の感情に飲まれちゃだめだ。大丈夫、莉羽には俺たちがついてる!」コンラードにも莉亞の声が届いたのか、そう言って私を励ましてくれる。そんな2人の優しさに私は、
「ありがとう。」と答え、落ち着かない心臓を何とか正常に戻そうと深く深呼吸してから、大きく息を吸って、
「ふざけんなー!裏切者―!コノヤロー!」と腹の底から大声を出す。
そんな私を見たコンラードは初め驚き、そしてその後、ハハハとお腹を抱えて笑い始める。
大声で叫んですっきりした私は、
『ごめん…。また裏切られた…って思ったら、心のコントロールが出来なくなって…。でも…、そうだよね。負けちゃいけない。決して諦めちゃいけないよね。私が絶対に…、この国を、世界を守るんだから…。私は神遣士なんだから…』
2人のおかげで、自分の誓いと使命を思い出した私は、再び剣を強く握りしめる。
すると、再び心層に、莉亞が語りかけてくる。
『莉羽、10人くらいフードを被った奴らが、王宮の一番高い塔に上っていくのが見えるわ。』




