【第7夜~魔法の世界へようこそ~シュバリエからメルゼブルクへ~】(改)
「お嬢様、リハラティエ様、起きてください。」
侍女の声が聞える。
この星、メルゼブルクの王宮の敷地内にある、魔法省最高責任者メルディスティアードの邸宅の一室。
ここは、私の夢の第二の舞台。
今日も私は侍女に叩き起こされるようにして、なんとか目を覚ます。
侍女は、何年も私の目覚まし時計の役を甘んじて受けてくれているが、16歳にもなるレディが情けない…と、いつも愚痴をこぼしている。
「いい加減、ご自分で起きられるようになってくださいね。
いずれお嬢様が魔法省のトップ、
メルディスティアードになられるのですよ。
そのようなお方が、ご自分で起きられないなんて…。」
ぶつぶつ言いながら侍女は、部屋の花瓶の水を替える。
「は~い。起きましたよ。
いつも起こしてくれてありがとう、エル。
あと、何度も言うけど私の名前、
【リハラティエ】って、
長くて言いにくいから、莉羽でいいよ!」
「はい。そうでしたね。莉羽様。」
侍女のエルが、こちらを見て少し呆れたような表情をしている。
私はゆっくりベッドから起きだし、自室の神の像の前で、今日一日の祈りを捧げる。
「今日も良き日になりますように…。
神のご加護を…。」
※※※
私は、この星メルゼブルクの国王の側近、魔法省最高責任者メルディスティアードである大魔法使いの、長女として生まれた。
この星では国民のほとんどが、何かしらの魔力を持っている。
メルディスティアードとは、この星で生まれた魔法のすべてを網羅している、言わば最高の魔法使いであり、私は父の指導の下、次期メルディスティアードになるべく、修業の日々を送っている。
幼少期からの修業の成果が最近ようやく花開き、相当数の魔法を使いこなせるようになってはいたが、父曰く、まだ能力を完全に解放できていないらしい。
着替えを終えたところに、
「莉羽~。おはよう!」
男性にしては、少し高く、通る声で私を呼ぶ…、
私にとっては【悩みの種】さんが部屋に入ってくる。
私に【悩みの種】と、屈辱的な名を命名されたその人…、
メルゼブルクの第一皇子クラウディスである。
彼は、腰まで伸びる淡い水色の髪をかき分け、少し垂れた紫色の瞳でまっすぐに私を見る。
細身の体から、長く伸びる手足、皇子としての気品を兼ね備えたその姿に、女性のみならず男性も「美」を感じる…が、
………、
性格や言動は、それとは裏腹に、かなり残念な感じが否めない。
最近気づいたのだが、彼はどうやら私に気があるようで、寝ても覚めても私にまとわりつく。
今となっては信じがたいが、聞くところによると、幼いころは、人見知りが異常に激しかったらしい。
乳母以外の人を寄せ付けず、宮廷行事があっても、顔を出すことが滅多になかった。
それが私と出会ってからは、人が変わったように、親しみやすい皇子となったらしい。
見た目は、男らしさより、やや中性的な雰囲気があり、修業においても、日々のらりくらりとこなし、適当にやっているようにしか見えないのだが、本気になると、とてつもない力を発揮する。
このギャップが、王宮内の侍女の心を惹きつけるようだが…、
私は正直、
友達のお兄さんのような感覚で接している。
もちろんこれは、本人には言えない。
ただ私に好意を持ってくれているということに関して言えば、現実世界では、こういったシチュエーションも、まずあり得ない私にとっては、嬉しいと言えば嬉しい。
中学、高校と何とも悲しいことに、モテた覚えがない私…。
そう考えるとクラウディスは私にとって、かなり貴重な存在ではある。
「おはようございます。クラウディス皇子。
今日もわざわざ部屋まで来てくださって、
ありがとうございます。」
その私の言葉に満面の笑みを浮かべて、
「僕はさぁ、早く莉羽と結婚して、
毎日君の隣で目覚めたいんだよ!」
冗談なのか本気なのか…、そう言って、一人でワーキャーはしゃぐ皇子。
「あはははは…。そんな御冗談を…。」
すると、聞き覚えのある声とともに、一人の女性が入ってくる。
「お姉さま、おはようございます!」
驚き振り向くと…、
部屋に入ってきたのはなんと…、
莉奈だった。
夢では何度も来ているこの世界ではあるが、私の妹が、姉の莉奈だなんて、
本日、初登場なだけに、驚きを隠せない。
しかも夢の中とはいえ、凱との一件があるから何となく気まずい。
「お父様から、
お姉さまを連れてくるように言われてきましたの。
早く支度して行きましょう、お姉さま。」
お姉さまというワードが引っ掛かるけれど、
「分かったわ。」
返事をすると、莉奈はにこっと笑って部屋を出ていく。




