【第10夜⑥ ~血のつながりがなくとも…~】
「お母さん。私ね、王宮の人達に…、お母さんが、本当の子供じゃない私のことが邪魔になったから…殺そうとしたって、だからお前は王宮に逃げてきたんだって、ずっと言われ続けてきたんだ…。だから、私はずっと…、お母さんを恨んできた…。
メイアが生まれたら、私なんてどうでもよくなっちゃったんだって、悲しくて苦しくて…。毎日それを言われ続けて…、お母さんの事を恨まない日はない位、憎くて仕方なかった。
でも…、真実を知って…。お母さんがあの時狂犬から命がけで助けてくれたからこそ、今の自分がいる、生きている。そのおかげで本当の姉である莉羽とお母さん、そしてエルフィー皇子に会うことができた。
今ある何もかも全てが、あの時お母さんが助けてくれたからこそ、実現出来ているんだと思う。たくさんの人に出会い、人生の目標を持って生きていられるのはお母さんのおかげ…。お母さんが私を疎む時期は確かにあったかもしれない。でも、本当に疎んでいたら…、狂犬から救おうと思わないでしょ?今だから言える。私はお母さんには感謝しかない。ありがとう。」
莉亞は泣きながら心の内を全て話す。一生懸命、一言、一言に心を込めながら話す莉亞の姿に、さらに涙が溢れる母バーバラは、絞り出すように自分の思いを話し始める。
「莉亞。ずっと苦しい思いをさせてしまって、本当に…ごめんなさい。信じてもらえないかもしれないけど、天使のようなあなたがこの家に来てからずっと…、お母さん幸せだった。慣れない子育ては想像以上に大変だったけど、その一つ一つがお母さんを少しずつ本当のお母さんにしてくれた。感謝しなければいけないのは、お母さんの方よ。
それなのに、メイアが生まれてから…、朝から晩まで病弱なメイアの看病で手がいっぱいだったのと…、正直言うと、あの時のお母さんはもう限界だった…。あなたがこの家に来てから、周りに何と言われようと大切なあなたを自分の手でちゃんと育てようと心では思っていたのに…。
ちょうどイヤイヤ期に入ったあなたを母親としての広い心で見ることが出来なかったし、その先も育てていく自信も何もかも失ってしまっていた。今更、言い訳にもならないけれど…、いつ最悪な事態になるかわからないメイアの看病で、心が壊れてしまっていたの。
お父さんからあなたを王宮に…という話があった時、あなたがいなくなれば、自分のこの苦しさが少しは楽になるだろうと考えてしまった自分がいて、でもそれが母親としてあり得ない選択をしているのも分かっていた…。それなのに…、だからお母さんはあなたから責められて当然、感謝してもらう資格なんてないの。感謝なんて言わないで…、一生恨まれて当然なんだから…。」母バーバラはそう言って、膝から崩れ落ちるように号泣する。
莉亞は衝撃の告白に一瞬、言葉を失う。
しばらく言葉を発する事も出来ないほどしゃくりあげるように泣いていたバーバラは何とか思いを伝えなければならないと、コンラードにしがみつきながら再び話し始める。
「でも、これだけは信じてほしい。あなたがこの家からいなくなって、私は心から後悔したわ…。確かに自分の生活に時間的余裕ができて、少しは楽になった。でも、私は毎日毎日あなたを思って…その罪悪感に苦しんだ。1日たりともあなたを思わない日はなかった。王宮にいるあなたの幸せをいつも祈っていた。王宮に会いに行こうと何度思ったかわからない。
でも…、あなたに自分は捨てられたんだと恨まれているだろうし、私の顔なんて見たくないだろうと思って…、足を向けることができなかった。お父さんはそんなことはないから、一緒に行こうと何度も言ってくれていたのに…。お母さんには、その自信がなかった。今、思うと逃げていたんだと思う…。
だから謝らなければならないのは、お母さんの方なの…、たくさんの幸せをくれたあなたを…、お母さんが裏切っていた…。本当にごめんなさい…。」そう言って、再びその場に泣き崩れる。そんな母を支えるコンラードは、
「莉亞、母さん。」そう言って2人を抱きしめ、
「ごめん。2人にこんな思いをさせてしまって…。お父さんも兵団の仕事が忙しかったこともあるし、正直どう解決すべきか…思い悩んでいた。もっと早く2人の思いを聞けば、こんなことにならなかったのに…。一番悪いのは父さんだ…。本当にすまない。」唇をかみしめて涙を流す。
それぞれが何年も抱えてきた思いを伝え合い、血のつながりがなく、それぞれの思いが交錯する中でも、家族としての思いがここで1つになる。3人は自分たちが長年抱えてきた後悔を乗り越え、新たな気持ちで家族になっていこうと強く、優しく抱き合った。慈愛に満ちたこの空間に、私もこの上なく幸せな気持ちになり、涙が止まらない。そして、
「バーバラさん、私は莉亞の姉の、莉羽です。あなたが命を懸けて莉亞を守ってくれたからこそ、今、こうやって私たちは出会うことができました。本当にありがとうございます。
現在、この星に起きている事件に私たちは立ち向かうべく、共に行動しています。これから始まる戦いは、先が見えず不安ばかりですけど、こうやって私たち姉妹は1つの目的に向かって前に進んでいます。そんな中、私たちは姉妹として共にあることを、本当に幸せに感じています。これからも温かく見守ってください。」
私たちの置かれている状況を話すと、最初は驚いていたバーバラだったが、
「姫様…。私の最愛の娘を…、よろしくお願いします。」私の言葉にさらに涙を流す。
私たちはしばらくこの幸せをかみしめていた。この後どんな敵と、どんな戦いが待っているか全く先の見えない状況。再びここに戻って来れるのかすら分からない、その不安から少しでも目をそらして、この幸福な時間を味わっていたいと、ここにいる誰もがそう願っていた。しかし、時は残酷だ。この村を出る時間が刻一刻と迫っている。
「必ず生きて帰ってきてね。ご馳走を作って待ってるから…。」バーバラはそう言って、莉亞を抱きしめ、
「姫さま。その時は是非、一緒に来てくださいね。莉亞のお姉さんということは、私の娘でもありますもの。」私に優しくほほ笑みかける。
「ありがとう。ここにこれて本当によかった…。」
「うん。」莉亞が目を潤ませて両親を見ながら言うと、2人が莉亞を抱きしめ、頬にキスをする。
私はその温かい光景に嬉しくなって、涙がこみ上げてくるのを感じる。
「よし、じゃあ行くか、2人とも。母さん、後はよろしく!」
「ええ、気を付けて!」
私たちはアランドルの家を後にする。




