【第10夜④ ~母と娘の確執~】
日が昇っている間に、まず帰ってきたことのない仕事熱心な夫が、玄関の前に立っている事自体あり得ないことだった為、
「どうしたの、あなた?」と驚きの声を上げたバーバラだったが、その夫の腕に抱かれた小さな命に、再び驚き目を見開く。
「この子は今日からうちの子供だ。」コンラードはそう言って家の中に入り、
「訳は帰ってから話す。至急王宮に戻らなければならない。あとは頼んだ。」そう言って何事もなかったかのように出ていく。
ここまで話すと、コンラードはため息をついて、
「莉亞…、母さん。すまん…。王の命を受けて莉亞を村から連れてきたが、王の言うようにお前が呪われた存在とはどうにも思えず…。私の一存でお前を家に連れてきてしまった。でも、あのまま王宮に連れて行ったら、間違いなくお前は殺されてしまうと…。そんなことはさせたくなかったんだ。分かってくれ。」そう言って2人に頭を下げる。そんな父に莉亞は、
「お父さん、私をここに連れてきてくれて、育ててくれてありがとう。もしその時お父さんがここに私を連れてきてくれなかったら…。だから、頭を上げて。ねっ。」そう言って、父の肩に手を置き、感謝を伝える莉亞。
「そうよ、あなた。あなたが莉亞を家に連れてきてくれたおかげで、私は生きる理由が出来たの。いろんな事があって、莉亞にもお父さんにも、気を遣わせてしまったけど…。」母は少しうつむいてから、
「ここからは、莉亞が知らない事実を伝えるわね。本当はあの時何があったのか…。」そう言って母は、過去を懐かしそうに、時に笑顔で、時に悲し気な表情で話し始める。
コンラードが連れてきた赤子の世話に、初めこそ困惑していたバーバラだったが、天使のような莉亞の可愛さに、たくさんの愛情をかけて育てることを決意する。毎日がこの上なく幸せで、自分の腹を痛めた子供が欲しいと望んでいたことすら忘れかけていた、莉亞2歳のとき、自分の子を身籠ることになる。
しかし生まれたその子は病弱で、妻はその子につきっきりになり、コンラードが帰ってこれない日が続くと、まだ手のかかる莉亞を知人の家に預けるが多くなった。また、莉亞が独りぼっちで家の庭で遊んでいたり、小さいながら留守番をしていることなど、近所から徐々に周りに知られ、バーバラが育児放棄しているのでは?との疑惑が生じてしまうことになる。
そんな中、母子3人、買い物からの帰り道に事もあろうか狂犬に襲われ、妻は莉亞を守ろうとするが、その時護身用に持っていたナイフが運悪く莉亞の腕をかすめる。母はそこを通りかかった男に助けを求めるが、その時すでに狂犬は姿を消していた為その男は、バーバラが莉亞をナイフで切りつけたが、自分にその現場を見られたのではと思い、言い訳として狂犬の話を出してきたのかと疑う。
その報告を受け、直ちに帰ってきたコンラードも、妻からその話を聞くが、そこに狂犬はいなかったという周りの話も同時に耳に入れる。コンラードは妻を微塵も疑ってはいなかったが、実際、体の弱い娘メイアの看病に疲れ切っている妻の苦労と、育児放棄の噂が立ってしまうほどの、莉亞の現状を考え、莉亞を王宮に連れていく事にする。
この時のコンラードは、その対応が母と娘の確執を生み、家族の気持ちをバラバラにしてしまうことになるなど想像もしていなかった。




