【第10夜③ ~不思議な出来事~】
コンラードは、涙の止まらない娘と妻バーバラの手を取り、神妙な面持ちで話し始める。
【コンラード夫妻は結婚7年目にしてなかなか子供に恵まれなかった。コンラードは当時30歳という若さで次期王兵団団長と言われる実力を持ち、王からの信頼も厚かった。当時の団長は業務の多さから、コンラードに王宮での生活を勧めたが、王兵団の家族が暮らす一角はベビーブームのただ中で、団員の妻たちの話題は子育てが主であった。不妊に思い悩む妻バーバラをそこで生活させることは、余計な心労をかけるだけだと、コンラードは王宮とアランドルの往復の生活を送っていた。
バーバラはコンラードのその優しさを心から嬉しく思いつつも、そうさせてしまっていることへの罪悪感も同時に感じていた。コンラードはその妻の思いも十分に理解しながらお互いを思いあう生活が7年続いていたある日のこと…。
コンラードが王宮で業務をこなしていると、イザークで発生した大規模な地割れの調査に向かうよう、王から直々に密命を受ける。
『イザークの大規模な地割れは、ある赤子の仕業だ。それはこの星に災いをもたらす呪われし赤子。イザークよりその赤子を至急連れてまいれ。もしその赤子が抵抗しようものなら、お前の手で消し去るのだ。この星を消滅させる力を持つ前に…。』
コンラードは、未来を見る能力を持つ国王のその言葉に恐怖を覚え、直ちに赤子を確保するべく単独でイザークに向かう。
イザークに付いたコンラードは、早速赤子の捜索に入るが、見つけるのに時間はかからなかった。その子は村長宅で保護されていたからだ。村長に王命により赤子を王宮で保護することを伝え、地割れ調査はこの後到着する王兵団が行うと告げ、直ちに王宮へ向かう。
しかし、そんなコンラードの思いを打ち砕くような事件が次々に起こる。
コンラードと赤子がイザークを出るや否や、たくさんの魔物に襲撃されることになる。コンラードの実力であれば、数匹の魔物を一度に軽く撃退できるのだが、この時は違った。
何十匹者もの魔物による一斉襲撃。いや、襲撃ではない。赤子奪取が目的なのは明白だった。コンラードに攻撃系の魔物が一斉に襲い掛かり、それに応戦している間に、防御系の魔物がそのすきを狙って赤子を奪い取ろうとしている。それを理解したコンラードは、敵の攻撃により背中や腕に何カ所も深手を負っていたが、なんとか防御の術を使い、自分たちの周りに結界を張ろうと試みた。
しかしその瞬間、敵の一撃がコンラードの右胸に突き刺さり、コンラードは赤子を抱きかかえたまま、落馬してしまう。コンラードはその後、意識を失い、それから数日経ったであろう早朝、ある洞窟で目覚める。
ゆっくりと起き上がると、体中の傷、そして致命的な攻撃をうけたはずの右胸が完治していることに気づき、驚いて周りを見回すとそこには…、
笑顔をたたえ、すやすやと眠る赤子の姿があった。その赤子も、自分が抱きかかえ守っていたとはいえ、あれだけの数の魔物に襲撃されながらも全くの無傷でいることに、コンラードの頭の中は混乱していた。
不思議な現象に頭を巡らせていると、その赤子の体から突然真っ赤なオーラが発せられ、コンラードの体も包み込む。そしてそのオーラが消えたころには、赤子の髪と目の色が茶色に変わっていた。
その光景に目を奪われていたコンラードは、その赤子を優しく抱きかかえる。するとその子は天使のような笑顔でコンラードに微笑みかけ、そして心層に話しかける。
『ありがとう』
コンラードははっとして、その子を見ると、また微笑みながら眠っていたのだった。
その件以降、コンラードの頭の中では、
『本当にこの赤子が国王の言う「呪われし者」なのか?』
という疑問が生まれる。悩みに悩んだ末、導かれるようにまっすぐアランドルに馬を走らせるコンラードの姿があった。




