【第10夜② ~母子の再会~】
それと時を同じくして、王都にいる莉亞の育ての父で、国家王兵団団長コンラードは、急いで故郷アランドルに向かっていた。私たちがアランドルに向かっているとの急報を受け、【ある理由】から私用という形で、急いで馬を走らせたのだったが、先に着いたのは私たちだった。
私が最初にここを目的地の1つにしたのは、その兵団長の【ある理由】とは全く無関係だったが、昨夜、エドヴァルドたちとの話のあと、莉亞から自身の幼少期について話を聞いた私は、莉亞の育ての母と向き合うべきだと判断し、目的地としたのに間違いはなかったと確信して出発時間を早めていたのだ。
アランドルに到着し仲間に休息を取ってもらう間、莉亞は家に向かう。緊張した面持ちで玄関に向かう莉亞が助けを求めるような顔でこちらを振り返る。私は首を横に振って、最後にニコッと笑い、ガッツポーズをしてみせる。するとそれに応えるように、莉亞はうんと頷き玄関のドアを叩く。すると育ての母と思われる女性が出てきて、
「どなた…?」そう尋ねるバーバラは怪訝そうな顔で莉亞の顔を見る。しかし、その後はっと何かに気付いたのか、表情を一変させて、
「もしかして…、ルイー?あなた、ルイーゼなの?」そう聞く母の顔を見ながら、うんと莉亞は頷く。
「本当にルイーゼ?こんなに大きく、素敵な女性になって…。」
母バーバラはそう言うと、莉亞の顔を愛おしそうに見つめながら、おもむろに娘を抱きしめた。莉亞はまさかの出来事に驚きながらも、
「お母さん。」と発して一気に涙を流す。
2人は玄関でしばらく抱き合っていた。しばらくして、莉亞が母の顔を見て涙を流しながら、
「お母さん。私ずっと言いたいことがあったの。」そう訴える娘の涙を愛おしそうに両手で拭う母。
「私こそ、莉亞。あなたに言わなければならないことがあるの。」と顔を歪ませ苦しそうに話す。
莉亞はそれを遮って、
「先に言わせて、お母さん。ずっと思っていたの。でも言えなかった…。
私のせいで、私のせいで、ごめんなさい。お母さんが悪く言われてしまって。でも…、お母さんが私の命を救ってくれたこと思い出したの。」莉亞は顔をくしゃくしゃにして、大粒の涙をそのままに心から詫びる。それを見た母は、
「違うわ、莉亞。お母さんこそ、ずっとあなたに言わなくちゃと思っていた事があるの…。
あなたをずっと愛してるって。」
その言葉を聞いた莉亞は、まさかの言葉に動くことが出来なかった。少し経って、ようやく言葉を噛みしめた莉亞は思いっ切り母に抱き付く。再び抱き合う母子。失った時間を分か合う。娘は母の温もりを…、母は娘の温もりを感じながら…。
そこに父である兵団長コンラードが帰宅する。彼は2人の姿に安堵の表情を浮かべると、ゆっくり歩み寄って2人を優しく抱きしめる。
「おかえり…、我が家に、ルイーゼ。」その父の言葉に、さらに涙が溢れ出る2人。
父コンラードは、しばらくそのままで2人を温かく見守り、2人にキスをしてリビングに入るように促す。その様子を陰からこっそり見ていた私に近づいていたコンラードは、
「姫様。どうぞ中にお入りください。」そう言って、私を家の中に招き入れる。
リビングに入ると、ソファに母バーバラと莉亞が手を重ね、母はもう一方の手で莉亞の頭を撫でながら座っていた。母は娘を愛情に満ちた目で見つめ、娘は母に生まれて初めて心から甘える。その姿に涙しながら、父コンラードは語りかける。
「お茶にしようか。」2人のために、たっぷりのフルーツを入れたマリ茶を淹れ、
「甘いものと温かいものは心を解きほぐす。止まっていた君たち2人の時間を、ゆっくり進めていこう。」そう言って、2人を抱きしめる。
部屋中マリ茶とフルーツの甘い香りに満たされたころに、莉亞はイザークで聞いた、父コンラードの不可思議な行動と、自分の生い立ち、そして母との確執がなぜ生まれてしまったのかを、静かに問いただし始める。




