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【第10夜① ~たかが夢、されど夢~】

その夜、私の眠りに、またあの老人が入り込む。


「自分が神遣士だと分かったようだが…、まさかお前のような小娘がな…。」老人はあざ笑うかのように話す。


「また、あなたなの?」


 夢の中に何度か現れてその都度私を恐怖のどん底に突き落とす、その老人に不思議と以前のような恐怖感はなく、うんざりした気持ちになる。私の夢に初めて登場した莉亞は、老人の放つ異様な気味悪さを感じたようで、私の手を取り握りしめてくる。


「ずいぶん余裕が出てきたようだな。しかし、そんな余裕ぶっていられるのも今だけだ。お前が神遣士だとして…、バートラルはどこにいる?お前を護るべきバートラル無き今、どうやって戦おうというのだ。神遣士と眞守り人は一心同体、どちらが欠けても力は発揮できぬ。お前たちに勝ち目はないのだ。もう諦めるのだな。戦う前に勝敗は決まっている。」その老人はそう吐き捨てる。


「そうやって何度も夢の中に現れては…、あなた一体何者なのよ!もういい加減にして。それに…、戦ってみないと分からないじゃない。戦う前から諦めるなんて、私には絶対に無理。」私はその老人の言葉に怒りがこみ上げ言い放つ。


「若いな、小娘…。敵は未だ完全な力を得てはいない。今、奴はその力を取り戻すべく世界中に自分の配下を送り込んで、力のかけらを集めている。そのかけらが集まった時…。それがお前の最後、つまりはこの世界の最期ということだ。無駄な戦いだ。血が流れすぎる。

 ならば、このまま奴の望む世界を受け入れたほうが、失われる命が減る。お前が神遣士であるならば、この世界の人々全ての命を預かっているも同然。その民を犠牲にするという決断は取るまい。まだ、間に合う。決断するのだ。人々の命の重さを理解しろ。」


「さっきから、聞いてると、鼻から私が負けることを前提に話してるようだけど…。さっき言ったように私は逃げない。私は負けない。凱は死んでいないし、私は必ず勝つ。

 人の命の重さは分かっているつもり。でも、誰かに支配され、自由を奪われるような世界であるならば、最後の最後までその命のため、自由のために私は戦う。私はその敵から…命の自由を必ず勝ちとる。」


「ふんっ。力も知恵もないというのに…。後悔しても知らぬぞ。」老人は半笑いをして、


「小娘よ。最後にヒントをくれてやろう。


『すべてはお前自身だ。』」


「何よ。それ?」私が怒って聞くと、


「降りるなら、奴が力に目覚めておらぬ、今だぞ。」あざ笑うようにして、老人は消えていった。


※※※


翌朝。私たちは町の人たちに別れを告げ、兵団長の故郷アランドルを目指す。


その道中、私は莉亞に昨日の夢について話しかける。


「莉亞…、昨日の夜ね、ある夢を見たんだけど…。」そう言うと、莉亞は顔色1つ変えずに、


「ああ、あの偉そうな老人ね。」私は自分の馬を莉亞の方に寄せ、


「莉亞も見たんだね?」


「うん。薄気味悪い…、あの老人。」不機嫌そうに話す莉亞。


「そうそう。出てくる度に上からな感じで、いつも私の事を馬鹿にしているんだよ、あいつ。それで、出てくる度に…いつも戦いをやめろって言うんだよね…。でもさ…、今回気になる事言ってたんだよね…。」


「確かに…、敵の事を奴って呼んでたし、降りるならって…、この戦いから降りるならって意味だよね?その敵って奴に支配されろって事?ほんとに意味わかんない。」莉亞が怒ったように言う。


「そう、私も思った…。奴が目覚めぬうち…とかも言ってたけど、あの人にはこの戦いの全体像が見えてるってことなのかな?今回は珍しく聞きたいこといっぱいあったのに、言うだけ言って消えちゃうんだもん。でも…あの老人の雰囲気…、ずっと昔から知ってるような気がしてるんだよね…。なんなんだろう…。」私は頭をフル稼働させるが思い出せない。


「そうなんだ…。意外に近い場所にいる人だったりしてね。」


「そういうの有るかもね。まあでも…、夢だし…。」


 と自分で言いながら、今この世に起きている事態が私の夢だと思った事から発している事を考えると、「たかが夢」で片づけられないなと感じる。それを察したのか、


「いやいや…、たかが夢、されど夢だよ。」


私と莉亞は黙って一瞬顔を見合わせてから、苦笑いして馬を走らせる。


状況は分からないものの、その様子を見ながらほほ笑む師団長とポルトス。



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