【第9夜⑩ ~生体反応~】
私が立つ地割れの手前側は、まっすぐにナイフで切り取られたかのようにきれいに切り立ち、その距離は東西に200m以上。ここから向こう側までの距離は15mほど、底は深くすぎて見えない。
『こんなに深くちゃ、この下に降りて捜索っていうわけにはいかなそう…。それにしてもこれだけの地割れで被害がないなんて…。』私は気になって、莉亞に話しかける。
「こんな大規模な地割れがあったにも関わらず、ここから2㎞ほどの村への被害はゼロって…。アースフィアの地割れも、駅前以外はほぼ被害がなかったけど、この地割れとアースフィアの地割れは関連がありそうだよね?」
「うん。確かに。お母さんがアースフィアの地割れは、凱と莉羽を狙ってたんじゃないかって言ってたけど、この地割れと関連があるならば、きっと敵が狙う何かがここにもあったってことだよね?」
「私もそう思う。でもそれが何なのか…。こんなに深さがあったら、降りる事なんてできないし…。」私は悔しくて涙目で言う。
「莉羽。元気出して。関連があるなら、きっと何かが見つかるはずだよ。ねっ。」
「うん…。凱、ほんとにどこに行っちゃったの…。」今にも泣きそうな私を莉亞が抱きしめる。
それを見ていたエドヴァルドが、足早に私たちの後ろに立ち、周りの兵士から私たちの様子が見えないように隠す。それに気づいたジルヴェスターも同じ行動に出る。190センチ半ばはありそうな2人のおかげで、私の泣きそうな顔も、私を抱きしめる莉亞の様子も他の兵からは見えなかった。エドヴァルドは、神妙な面持ちで、
「特別な事情があるのですね?もしその詳細をお聞かせいただければ、お力になれると思います。私たちお支えしますので…。
でも、今ここは非常に危険でございます。早めに戻りましょう。そのお話はまたその時に…。内容次第では特別調査隊を設け、全力で捜索に当たらせることができます…、ご心配なさらぬように。」そう言うとジルヴェスターが、
「行きましょう。姫。」
表情一つ変えることなく、そして目を合わせることなく、私たちをその場から移動するよう促す。私と莉亞は、彼の様子に自分たちの身に危険が迫っていることを感じ、その言葉に素直に従う。
するとその直後、私たちの背後から轟音が鳴り響き、先ほどまで立っていた場所が崩落していく。私と莉亞は安全な場所まで退避すると、うしろを振り返り、その様子を見て背筋を凍らせる。その恐怖に思わず私に抱きつく莉亞。
「ありがとう、エドヴァルド。ジルヴェスター。」そう2人に話しかけた時、莉亞が真っ青な顔をして、崩落の恐怖で震える手で私の腕を掴み、心層に話しかけてくる。
『莉羽。さっきまで感じなかった生体反応を感じる。この下にまだ生存者がいるんじゃない?』
私はすぐさま神経を地割れの中に集中させる。
『確かに感じる!さっきまで全く感じなかったのに…。』
『数人いるよね?』
『うん。待って、声が聞える』
【みんな、無事か?】
【はい、全員無事です。でも、今の崩落は危なかったですね。】
【ああ。でもみんな無事でよかった】
『莉亞。さっき集会所でこの崖から落ちた人がいるって聞いたけど、その人達かな?』
『多分そうじゃないかと思って、場所を特定しようと思ったんだけど、何かが邪魔をしているみたいで分からないの…』
『師団長に相談しよう。きっと何か手を打ってくれるはず』私はすぐさま状況を話す。
「分かりました。すぐに捜索隊を出します。ご安心ください。」そう言うと、エドヴァルドはジルヴェスターに耳打ちする。
「貴重な情報をありがとうございます。ところでお2人とも、お体の震えが止まっていないようですが…、大丈夫でしょうか?こちらは、いつまた崩落するかわかりません。ひとまず集会所に戻りましょう。話はそれからです。」
私たちの不安を悟ったエドヴァルドは、私たちを守るようにして集会所まで先導する。




