【第9夜⑧ ~兄弟のしがらみ~】
私たちとエドヴァルドのやり取りを見ていた村長が、
「あの兄弟には助けてもらってばかりでして。おそらく、この国の中でも有数の剣の名手であり、異能の使い手だと思います。
実際にあの2人の戦いを見たことはないのですが、訓練に同行した団員の話によると、高い能力者の集まるこの村の者でさえ見たことのない異能の力で魔龍を倒したと聞きました。
その時、とどめを刺したのは弟のジルヴェスターだったそうで…。剣の腕では弟、団員の統率力では兄と言われております。
しかし、さっきの雰囲気で感じ取られたかもしれませんが、あの2人は必要最低限のやり取りしかしない。2人の間には、わしらには分からぬ「しがらみ」があるのだと…。皆、そう話しています。」村長は悲しそうな目で話す。
「しがらみ…ですか…。」
私は2人の関係性に思いを巡らす。兄弟、姉妹の間には、少なからず問題があることは往々にして聞く。特に、能力の違いでの「妬み」などはよく聞く話だ。このファータでは、異能の力の差が大きく影響するため、この兄弟間にも何かあるのだろうなと容易に想像がついてしまう。
「あっ、内輪の話をお聞かせしてしまい、申し訳ございません。」村長は私の考え込む様子に、慌てて謝罪する。
「いえ…。兄弟ゆえ同じように鍛錬してきたはず…。その中でいろんな思いが生まれるのは当然のことです。彼らがこの先も高みを目指し、揃って精進して行かれることを祈るばかりです。」私がそう言うと、奥からエドヴァルドが現れる。
「姫様、お待たせいたしました。準備が整いましたので、現地までご案内いたします。」エドヴァルドがそう言い終えると、村長が私の手を取って、
「姫様。地割れの場所まで師団長をはじめ、この村の精鋭たちがお守りしますが…、くれぐれもお気をつけて。エルフィー皇子の拉致事件以降、民の不安は増すばかりです。ここであなた様に、もしものことがあったら…、民は生きる希望を無くしてしまうでしょう。どうかご無事で…。」そう言って、今にも泣きだしそうな顔をしている。私はそんな彼に安心してもらえるようにと、肩に手を置き優しくポンポンと叩く。
「大丈夫。私たちは必ず帰ってきます。だから安心して待っていてください。」
「姫様…。」私の言葉にとうとう涙をこらえきれなくなった村長に、
「帰ってきたら…、美味しいご馳走、期待していますよ。」私は茶目っ気たっぷりな笑顔を見せる。
それには村長はもちろん、村長の付き添いの者たちも思わず微笑む。その様子を見た莉亞が、皆に聞こえないように、
「ご馳走って…。他にも何か言う事あるでしょうに…。」と苦笑いしながらボソッとつぶやく。
「いいの。これで。」私は笑いながら歩みを早める。
『さあ、凱の手掛かりを見つけなきゃ。凱、待ってて…、絶対あなたを見つけ出して見せる!!』
私は決意を新たに、馬を走らせる。




