【第6夜⑧ ~巨大な地割れ~】
それから、テンションの上がっている私たちは、
「女子会やろう!」と盛り上がり、お茶の準備を始める。甘いものさえあればテンションの上がる女子3人は、誰も口にこそ出さなかったが、しばらくこういう時間は過ごせないことを理解していたので、今、この時間を思う存分楽しもうといつになくはしゃいでいた。
「ところでそのピアス。ちょっと見せてもらっても良い?」母が興味深そうに言う。
「うん。」そう言って外したピアスを母に渡した瞬間、母が何かを思い出したのか、はっとして、
「思い出した…。ピアスに触ったら…、いろんな記憶が蘇ってきたわ。」
「そうなの?」私の問いに母は無言で頷いて、
「このメモ紙の絵なんだけど…。」母が、思い出した記憶を話そうとしたとき、ゴゴゴゴゴゴゴという凄まじい振動と轟音が私たちを襲う。
「何?」
「怖いよ。お母さん。」恐怖で一気に血の気が引く。
「2人とも、こっちに!」母はそう言うと、すぐさま呪文を唱える。すると先ほどの振動が収まり、轟音が聞こえなくなる。
「音と振動を遮断したから、もう大丈夫。」2人で胸をなでおろしていると、
『すごい音と振動だけど。そっちはどう?大丈夫?』凱の声が聞こえてくる。
『耳がおかしくなりそうなくらいの音と立ってられないくらいの振動だったけど、お母さんが収めてくれたよ。凱は、いまどこ?』
『駅前』
『とりあえずこっちはなんとか大丈夫から…、凱も早く帰ってきて!』
『ああ…』次の瞬間、また轟音と振動が始まり、
『あっ!莉奈!』と叫ぶ凱の声が聞える。
『凱?どうしたの?凱?えっ?凱?』私も必死で叫ぶ。
『莉奈~、莉奈~、莉奈~』徐々にかすれ、小さくなっていく凱の声がやがて、聞こえなくなる。
その言葉を最後に凱との連絡が取れなくなる。
私は何度も呼びかける。
『凱!凱!』答えはない。
揺れが収まり、しばらく経つと被害の状況が徐々に明らかになり、今回の地割れが駅付近から、幅50mの範囲で起きたことがわかる。しかし興味深いのは、これだけの地割れが出来たにもかかわらず、建物の倒壊、損壊はその地割れの一角だけで、他の地域は全くと言っていいほど被害がなかったのだ。私の家の周りも何の被害も見受けられなかった。
「あんなにも大きな地割れなのに…、これだけの被害で済むなんて…。」
「これは自然発生したものではなく、人為的に起こされたものかもしれないわね。」母がニュースを見ながら話す。
「もしかして…、標的は凱と莉奈?」私は自分の考えに恐怖を感じる。
「いいえ、もしかしたら…、莉奈と莉羽を間違えたのかもしれない。今日莉奈、帽子被っていったよね?」莉亞が私を見ながら言う。
「あっ、それに…、敵はまだ、莉羽の髪の色が変わったのを知らないのかもね。だとすると、莉羽と莉奈を間違える可能性は十分にある。…やっぱり狙いは、莉羽と凱。」母は震える私の手を握る。
「凱…、凱…、あの地割れ、見に行かなくちゃ…。」
私は呆然として、視点が合わない状態で立ち上がると倒れそうになる。それを母が受け止める。




