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【第6夜② ~狂人と化した父~】

 凱のその言葉に底知れない不安を感じた私は、母から初めてこの「破壊神」について聞かされた時に感じた「哀傷」について話し始める。


「初めてその「破壊神」の話を聞いた時に何となく感じたんだけど…、単純な「支配欲」とか「自己顕示欲」を満たすためだけに、戦争を起こしたんじゃないような気がしてならないの。なんていうか、悲哀みたいなものを感じちゃうんだよね。その破壊神から…。なぜかわからないけど…。」会った事もない、話もほとんど聞いたことのない「その人」に対してどうしてそう思うのか、自分でも分からないが感じたままを話す。すると、


「もしかしたら、お前の中にある、はるか昔の神遣士の記憶なのかも知れないな…。「破壊神」って言葉でその記憶が呼び起こされた?」凱が母に確認するように聞くと、


「私も直接会った事がないから確かな事は分からないけれど、可能性はあるわね。」」母が答える。


「だとすると、何か強い思いがありそうな気はするね。負の感情に飲まれるくらいだから、本人にも何かあったのかな…。でも、その「破壊神」に支配された人たちって、どうなるの?」莉亞は不安げな顔で聞く。


「…殺されるか洗脳。どちらかになる可能性は高いでしょうね。」母の声のトーンが無意識に下がる。


「そんな…。」私は血の気が引いていくような感覚を覚える。


すると突然、笑い声と共に、誰かが部屋に入ってくる。


「みんな、深刻な顔をしてどうしたんだい?」その声の正体は父、響夜であった。


「お父さん?」思わず声が出る。


 不敵な笑みをたたえ、ソファに座る私たちを見下ろすその顔は、別人のように狂気に満ちていた。その父の姿に悪気を感じ取って、とっさに身構える凱。


「おいおい、凱。いやいや、いくら私でも、突然現れて君たちを取って食おうなんて、そんな手荒な真似はしないよ。」今度は高らかに笑いながら話す父。


「あなた…。」母は困惑した表情を隠せない。そんな母を舐めまわすような目で見て、愚弄するように、


「今まで隠し通せてると思ったかい?我が妻、そして…、前神遣士エルフィシア。


いやしかし…、ここまでたどり着くのに随分時間がかかったねぇ。私の選んだ妻、娘たちならもっと早くたどり着けると思っていたが…。残念だなぁ…。」そう言って、私たち1人1人の顔を見まわし、


「まあ、いい。君たちにはこれから真実を見せてあげるからね。それを前提に、どの選択肢を選ぶか…、で、君たちの運命は変わるってわけだ…。」父は狂気の笑顔で言葉を放つ。


「…。」皆、黙っている。


「私の美しい女神。あなたと出会えて、私は本当に幸せだったよ。今の今までね。でもまさか自分の愛する妻が、「わが神」と古より敵対してきた神遣士の継承者だったなんて。初めて知ったときは、気が狂いそうなくらいに…、血が騒いだよ。ふふふ、はははは。」父はそう言いながら、ゆっくりと母の髪を撫で、高らかに笑う。それから父は、私を見る。


「おやおや、かわいい顔が台無しだよ、莉羽。まさかお前が現世での神遣士だったとはなあ。どこまでもどんくさい娘だと思っていたけど…、人は見かけによらないとは、こういう事だな。ははははは。」それから、ゆっくりと莉亞に視線をずらし、


「初めまして、莉亞。君も、莉羽に似て可愛いけど…、感動の初対面が、最後の別れになるかもしれないなんて…、さみしい限りだなあ。」


 父の言葉に怒りのゲージが満ちた私たち。今にも攻撃を仕掛けようとする私の心層に、凱は話しかける。


『ここは俺がちょっと挑発して、あっちの神の情報を聞き出す。それで奴らの思惑を確認しよう。お前の父親なのに悪いが…、そのあとはどうとでも出来る。とりあえず、俺に任せて。』


『…わかった』私は凱のおかげで少し冷静さを取り戻し、同じように母と莉亞の心層に、凱の言葉を送り込む。2人は私の目を見て頷き、凱に全てを任せ、その場の動向を見守る。


「莉羽の父親だからと思って…、何も言わなかったですけど…、妻が前神遣士で娘が現神遣士。そんなあなたはただの下っ端なんて、何とも情けないですね。」凱は宣言通り、挑発する。男としてのプライドを傷つけられた父は、真っ赤な顔で、


「ただの大人しい小僧だと思っていたけれど、随分と口が立つようになったな…。馬鹿にしやがって…許さない…。」凱の言葉に激高した父は、凱の傍に近寄るとその手を凱の首にかける。


「やめて、お父さん!」私は叫ぶ。凱は心配する私の方を見て、心層に『大丈夫』と一言語りかけると、


「分かりました、じゃあ早くその選択肢とやらを教えてくださいよ…。下っ端さん。」凱はニヤッと笑いながら話し、父の怒りを煽るように誘導していく。


「ぬかしおって~。」首にかけた手の力が強くなるのが見て取れる。


「やめて…、お父さん。凱を殺さないで。」いくら大丈夫とは言われながらも、狂人と化した父の目から本気の殺意を感じ、私は無意識に叫んでいた。


 最愛の父が、最愛の人を手にかける姿に、膝から崩れ落ちる。父はそんな私の姿を見て、ため息をつき凱の首から手を離す。


「まあいい、おとなしくついてこい。わが神が創ろうとされている、理想の世界を見せてやろう。」


父はそう言うと、今度は呪文か何かをぶつぶつと唱え始める。すると、黒い光と黒煙が辺りを覆い、私たちはその中に吸い込まれていく。


そこに突如、莉奈が入ってきて、


「何、これ?」と戸惑いの表情で、私たちと一緒に黒煙の中に吸い込まれる。


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