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【第5夜⑬ ~母の思い~】

【前回より】

そして、泉の中に入っていくマーガレットのすぐ隣の泉の水量が、それまでと比べて異様に増していき、その場に大量のミストが発生する。するとそのミストがスクリーンのようになり、突然女性の姿が映し出される。



するとアーロが、

「姉さん?」そう言って、その映像の目の前まで駆け寄り、


「姉さん、僕だよ。アーロだよ!」と大声で叫ぶ。


「待て!アーロ。話しかけても聞こえない。」凱がそう言うと、映像が変わって、今度はさっきまで映し出されていたアーロの姉に似た少し年輩の女性の姿が映し出される。するとアーロが、


「これ…って、もしかして…、母さん?」思わず声に出る。すると、その映像から声が聞こえ始める。


「アーロ。ここに来たってことは…、きっと大きくなったわね。私はあなたの母よ。元気に成長してくれて嬉しいわ。」


「母さん!」アーロは今にも泣きだしそうな声で叫ぶ。


「アーロ。聞いてほしいことがあるの。きっとあなたは、私があなたの命も何もかもどうでもよくなって、泉に身を投げたと思っているかもしれない。でも、それは違う。私は父さんが殺されてしまった後も、ケイトとあなたを自分の手で育てていこうと思っていたわ。

 ところがあの日、私は何者かの力によって泉に引き寄せられ、この泉の中に引きずり込まれそうになり…。でもあなたはまだ私のお腹の中にいたから、あなたをどうにか守りたいと、最後の魔力を振り絞って、あなたをこの世に生み出したの。でも私は力尽きて…、そのまま泉の中に…。


 だから、これだけは忘れないで。私はあなたを捨てたわけではない。あなたが私のお腹に宿った時からずっとあなたに会える日を楽しみにしていた…。あなたをこの手で育てようとしていた…。そして今も、あなたを愛し、あなたのすぐそばで見守っていることを…。忘れないで…、愛しているわ。」そう言うと映像は消え、アーロは大粒の涙を流して、その場に座り込んだ。


「僕…、ずっと思ってたんだ。詳しいことは分からないけど、母さんが、僕と姉さんの事なんかどうでもよくなって…、僕らの事を捨てて、死んじゃったんだって。友達も、お前の母さんはお前なんか生まれて来なければいいと思ってたって。だから、僕はこの世で姉ちゃん以外、誰からも必要とされていなんだって、僕には姉ちゃんしか必要ないと思ってた。でも、そんな姉ちゃんもいなくなって…。


母さんにはちょっと会いたいなって思ったりした時もあったけど、でもやっぱり母さんなんか嫌いだって思ってて…。でも今の母さん見たら…、やっぱり母さんの事、大好きだよ…。生きててほしかったよ…。母さん。」号泣するアーロ。それを見て、私も莉亞もリディアも涙が止まらず、アーロを抱きしめる。


 祈りを終えて出てきたマーガレットは、凱に事情を聴き、


「アーロ。あなたの気持ちに気づけずごめんなさい。まさかそんな風に思っていたなんて…。私はあなたの本当の母ではないけれど…、私もあなたを愛しているわ。」そう言うとマーガレットもアーロを抱きしめ声を上げて泣く。


皆が落ち着くまで見守っていた凱が、アーロの頭をポンポンとして、


「お前、みんなから愛されてるな!」笑顔で言う。アーロは、


「なんだよ、凱。羨ましい?」ふざけて言う。


「そんな口聞けるようになったなら、もう大丈夫そうだな!行くぞ、アーロ!」凱は気合を入れて、アーロの背中を叩く。


「うん!」アーロは凱の後について、歩き始める。その後ろ姿はもう、子供のそれではなく1人の男としての風格も垣間見えた。


私はみんなと目を合わせ、無言で頷き、笑顔で、


「行こう!みんなで!ガージリフトさんとミディア、ケイトさんを取り戻しに!」


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