【第5夜⑫ ~消えたミディア~】
【前回より】
「凱さん!凱さん!」突然マーガレットが血相を変えてかけよって来る。
「どうしました?」凱が聞くと、
「ミディアが…、ミディアが…。」そう言いながら、体を震わせるマーガレット。
私たちはいっせいにミディアが入っていた泉の方を見るが、ミディアの姿はない。
「ミディアが祈りを終えて出てこようとしたとき…、パッと目の前から消えたんです。」
そう言って膝から崩れ落ちたマーガレットは、ショックのあまり立つことができない。
「お母さん!」ミディアと同時に泉に入っていたリディアが駆け寄ってくる。
「お母さん、ミディアは?ミディアは?」動揺するリディアを莉亞が抱きしめると、この場の状況を察したアーロは、私と凱に続いて、ミディアが入っていた泉の周りを調べ始める。
「ミディアが魔法を使った痕もないし、ここには部外者の気配もない。アーロはどう思う?」凱に聞かれたアーロは、
「僕も、誰の魔法痕も感じないし、人の気配も感じられなかった。ミディアが自分からいなくなるわけないし…。」うつむき、今にも泣きそうなアーロに、
「ミディアは移動魔法は使えるのか?」凱が尋ねる。
「練習はしてたけど、まだ成功したことはなかったよ。」アーロは鼻をすすりながら答える。
「まさか、魔法痕を残さない魔法のかけ方は、まだ習得してないだろうし…。」凱は周辺を回りながら考え込んでいる。私はその間、他の場所も探してみるが、結果は同じだった。
「ミディアもここは初めてだろうし、1人で出ていくなんてことは出来ないだろうし…。」そんな私たちの目の前で、
「ミディア…。ミディア…。」泣き崩れる母をアーロは支え、莉亞に抱きしめらたリディアは、
「ミディアは敵に連れていかれたの?」私と凱に泣きながら聞いてくる。私はその表情に思わずリディアを抱きしめたくなる。
「リディア…。それはまだ分からない…。もう少し探してみようね。でも、もし連れていかれたのなら…、その時は、必ず取り戻すから。ねっ。」そう言って頭を優しくなでる。
その様子を見ていたアーロは、母とリディアの手を取って、
「母さん、リディア。僕が絶対に、父さんとミディアを助けだすから…。」
その言葉と目に、アーロの強く固い意志をそこにいる全員が感じた。
「アーロ、よく言った。お前ならできる。祈りの前と後で、お前から感じる魔力が全然違う。」そう言って凱は、ここでの祈りを終えて格段に頼もしくなったアーロの肩に手を置き、にこっと笑う。
「えっ?ほんとに?」嬉しそうに聞くアーロ。
「ほんとに全然違う…。ちょっとびっくりするくらい…。」私がアーロの目線に合わせてしゃがみ、アーロの澄んだ瞳を見つめると、突如アーロの体から黄色の光が放たれ、アーロは一瞬よろける。
「アーロ!」驚いたマーガレットがアーロを支える。その衝撃で少しの間意識が飛んでいたのか、しばらく黙っていたアーロが、
「今、びっくりした!莉羽ったら、何するんだよ!」ちょっと怒りながら口を尖らせるアーロ。
「いやいや、私はアーロの目を見つめただけだよ。でも、今ので確信した。アーロ、あなた、めちゃめちゃ強いよ!潜在魔力が半端ない!」私は満面の笑みで伝える。
「え?ほんとに?ほんと?やった!これで助けに行けるぞ!」それを見て、それまで泣き崩れひどく落ち込んでいたマーガレットは、少し落ち着きを取り戻し、
「凱さん、やっぱりここにミディアの気配は感じられませんか?」と聞く。凱は、
「残念ながら…。ミディアは抵抗する間もなく連れ去られたんですね。アーロが言うように、ミディアやそれ以外の者の魔法痕も気配も感じません。今起きている事件の犠牲者も、おそらくこうやって拉致されたんでしょう…。」リディアには聞こえないように、声のトーンを落とし話す凱。
「そうですか…。ここにいてもミディアが帰ってくるということがないのであれば…、村に戻りましょう。私もミディアのために出来ることをしなければ…。」マーガレットは取り乱しながらも、そう言い、
「私も祈りを捧げたいです。主人のため、ミディアのために…。」声を殺してさめざめと泣く。
「もちろんです。」凱は静かに答える。
そして、泉の中に入っていくマーガレットのすぐ隣の泉の水量が、それまでと比べて異様に増していき、その場に大量のミストが発生する。するとそのミストがスクリーンのようになり、突然女性の姿が映し出される。




