【第5夜⑩ ~回生によらない真の平和~】
凱は私を見て、
「ああ、ここでのこと全部思い出したよ。ここは曇りなき清聖な祈りを捧げることで、聖なる力を得られる至聖所だ。
この泉の中で祈り、この流れる聖水で身を清めれば、新たな力を見につけることが出来、その力を解放できる。
莉月さんは、回生の直前にここに来て、世界の平和を願い、身を清めたんだ。」
「お母さんがここで…?私もこの泉に入れば力が得られるの?」私は泉の水を手ですくってみる。
するとその水の優しさになぜか懐かしさを感じる。
「ああ、そうだ。」そう言うと凱はみんなにも声をかける。
「みんなも、1人ずつこの泉に入ってください。まず俺が入ります。見ててもらえれば手順が分かると思うので…。」凱がこう言うと、マーガレットが、
「私たちのような者も、このような神聖な場所に入っていいのですか?」凱に尋ねる。
「もちろんですよ。」凱が笑顔で返すと、彼女も嬉しそうに笑顔になる。
「そうですね、マーガレットさんは…、ご主人の無事、家族の幸せを祈ってください。みんなも自分が思うように祈ってごらん。」
「私は…、皇子の事、自分の事とかかな?」莉亞が言う。
「そうだね。私は…。」というと、
「莉羽は、いろいろ在りすぎるくらいだな。」凱はそう言うと、私の左のピアスを外すように促す。
私は外したピアスを凱に渡すと、
「じゃあ、先に入ります。見ててください。」
凱はそう言って、泉の前に行き、重力に反して流れる水に手を当てる。すると水が真っ2つに割れ、そこから凱は中に入り、祈り始める。
すると割れていた水が元に戻り、凱は水の中の空間に閉じ込められたような状態になる。水は変わらず地面から天井に向かって流れ、凱がいる空間には、ミスト状態の聖水が天井から降り注いでいる。そして、凱の祈りが完結したのか、その空間がさっきの凱の瞳の色と同じ色に光り、収まると凱が中から出てくる。
「凱、目の色が元に戻ったね。でも…、さっきは見えなかったけど、体の周りにオーラが見える。これが聖なる力?」凱は私の手のひらに、左のピアスを乗せて、
「ああ。お前もここで祈れば新たな力を得ることができるはずだ。それと…、このピアスだけど、両方同じ力が宿っている。近いうちに、その力を感じる日が来ると思う。」
そう言って渡されたピアスは、さっきとはまるで別物で、右のピアス同様真っ青な光を放っていた。
「つけてもいい?」頷く凱を見ながら、私は両耳にピアスを付ける。
ピアスから放たれていた光が収まった瞬間、私の瞳が真っ青に光り出す。
「莉羽、瞳の色が…。」莉亞が私の瞳を見て言う。
「体の中に何か力が湧いてくる感じがする。これはピアスの力?」
「莉月さんは、回生の直前、自分の意思と平和への願いをここに込めた。自分が神遣士の資格を失うと知らされ、真っ先に訪れたのがここだった。
『回生によらない真の平和を、次の時代に託したい』
莉月さんは、最後の最後まで、人間が自分たちの意思で生きる世界を望んでいた。莉羽、そのピアスに莉月さんの想い、能力が込められてる。この場所で祈りを捧げることで、お前の力はさらに上がるはずだ。」
「お母さんの想い…。それがピアスを通して私の中に…?」私が少し戸惑っていると、
「莉羽、私たちも行きましょう。お母さんの思い、全部受け止めよう!」
莉亞が私の手を取り、前に進む。




