【第5夜⑤ ~アーロの過去~】
ヴァイマールを出て1時間、何体かの魔獣と戦いながら、聖なる泉に到着する一行。
「子供たちが、莉羽さんと莉亞さんにすっかりなついて…。アーロは昔、いろいろあって…、ちょうどお2人と同じ位の姉がいたから…。嬉しいんでしょうね。」マーガレットの含みのある言い回しが気になって、私たちは顔を見合わせると、
「アーロのお姉さんの事、聞かせてくれませんか?」凱はマーガレットに尋ねる。
「アーロが教えてくれたことと私の記憶なので、曖昧なところはありますけどよろしいですか?」
「はい。」泉のほとりに座り、私たちはアーロの過去について話を聞く。
「あっ、でも最近おかしなことが起きたんです。それまで当時の記憶を全く思い出せなかったアーロなんですが、先日の王宮での事件の夜に…、突然記憶を取り戻し始めたみたいで…。それ以前と様子も違うんです。」
「えっ?あの凱の処刑が行われそうになったあの日ですか?」私は驚いて聞く。
「はい。あの日、王宮からとてつもない魔力を感じました。その時、アーロの様子がおかしくて、いくら呼びかけても返事をしない。そこにいるのに、抜け殻みたいな感じで。それで目覚めたと思ったら、突然過去の記憶を話し始めたんです。」私と凱は顔を見合わせる。
「俺と莉羽、クラウディスの魔力の解放に感化された可能性が高そうですね…。彼が何を思い出したのか教えてください。」
「はい。」マーガレットは神妙な面持ちで話し始める。
「アーロの姉、ケイトがいなくなった日の事です。泉に行こうとした姉についてくるなと言われたアーロは、姉の様子がいつもとおかしいのが気になり、こっそりついていったそうです。ケイトは泉に着くと最初は遠くを見つめていて…、しばらくすると祈りに入ったらしいのですが…、突然、泉にぽっかり穴が開いて、そこにケイトが吸い込まれていったと…。ケイトを助けようとしたアーロですが、何もできず…。穴に吸い込まれていくケイトは、アーロのことを見ながら泣いてたそうです…。」
「それはいつ頃ですか?」
「ちょうど3年前くらいのことです。両親を早くに亡くし、姉までいなくなってしまうなんて…。本当にかわいそうで…。」
「両親はどうして亡くなられたんですか?」
「ここからは私の知っている範囲の話になりますが…。アーロの父親は主人の弟で、潜在魔力は類を見ないほどの力の保持者でした。空間操作魔法の使い手としては、この国ではおそらくトップレベルだったのだと思います。
でも、ある時期から空間操作は禁忌魔法となり、彼はその魔法を使えることを隠し続けてきました。ある時、アーロを身籠った母親が男に襲われて…、義弟は怒りに我を忘れ、禁忌魔法『闇霧』を使ってその男を闇空間に封じ込めたんです。
その魔法痕を感知した国の上層部が、その力に脅威を感じ、アーロの父親を王宮に連行し…、すぐさま斬首刑としました。それを知った身重のアーロの母は、聖なる泉に身を投げ…。その時、泉のほとりで発見された赤ちゃん。それがアーロなんです。」
「そんな事が…。国の上層部って…。」私たちが話に聞き入っていると、目の前に、泉の周りで遊んでいたはずのアーロの姿があった。




