【第3夜⑨ ~力の融合~】
【前回より】
凱が声をかけると同時に、その融合した力をクラウディス達3人めがけて解き放つ。意表を突いた強烈な攻撃に3人は退かざるを得ず、まともな攻撃を受けた橙色の目を持つ女の片腕から滴り落ちる血液が徐々に広がり、地面を赤く染めていく。
その威力に慄きながらもクラウディスは、
「おっと、前よりはちょっと強くなったのかな?でも、お2人さん、そんなことしている場合?人助けの前に、まず自分の身を案じるべきじゃない?」そう言うと、クラウディスは私を黒雲の異空間に引きずり込もうと呪文を唱え始める。
ロイと負傷した橙色の目の女の力も加わって、徐々に私は凱のもとから引き離されていく、その様を狂ったように笑いながら、クラウディスは続ける。
「ところで凱。お前さあ、小さいころから俺の事を小馬鹿にしてたよな?俺のやること為すこと、横目で見ては、鼻で笑ってた。莉羽のことだって、俺の婚約者だっていうのにたぶらかして…、最終的には何でも俺のものを奪っていく。
王の座だって、お前が狙っているのは見え見えだったんだよ。俺の邪魔ばかりするお前みたいなハエは、さっさと失せろ。まあ、どんな汚いハエだって…、きっとあの女が拾ってくれるだろうがな。ははははは。代わりにお前の一番大切なものは…、俺がいただく。」目を血走らせて私の腕を掴んで、体を完全に自分の方に引き寄せる。
それを見た凱は目を閉じ、術言を唱え始める。次第に凱の体から、蒼い光が徐々に現れ、時間が経つごとにその光は大きく、輝きを増していく。さらに眼下に控えるファータの能力者、そして強力なオーラを発し始めたルイーゼの力に触発され、凱のオーラの色が、青からシルバーに変わっていく。その幻想的なオーラが天空まで伸び切ったところに、再びルイーゼから解き放たれた力が凱の術に融合し、そのタイミングで目を開けた凱が、
「黙って聞いてりゃ、さっきからふざけた事ばかり。俺はお前の物を奪おうなどと思ったことは一度もない。自らの失態で失ったものを、さも俺が奪ったような虚言、その口から二度と吐けないようにしてやる。」と言い放つと、風と音の精霊を呼び出し、
「颮撃音破」
凱は一瞬にしてクラウディスの懐に入り、手のひらを腹部に当て、一気に力を送り込む。その瞬間、耳を劈くような爆音が王宮中に響き渡り、そこにいる者は皆、目を瞑り耳を塞ぐ。その音が鳴りやむと、凱は一息ついて「天収」と締める。
爆音の衝撃に何が起こったのか分からなかった私たちが辺りを見回すが、クラウディスの姿は見当たらない。私が不思議そうに凱の顔を見ると、凱は無言で遠くを指さす。どうやら、クラウディスの体ははるか遠く視認できないところまで吹き飛んでいったらしい。凱の指さしたほうに、ロイの操る魔物がクラウディス回収の為か、飛んでいくのが見える。
そして凱はすぐさま、戦闘のために離脱したことで弱まった結界の再構築に入り始める。すると、そこには能力の第1ステージ解放を果たしたルイーゼが、息を切らしてかろうじて立つ姿があった。
「ルイーゼ。桁違いの力だな…。あそこまでの破壊力は類を見ない。」
言葉を発する余裕のないルイーゼは、凱の労いの言葉に力が抜けたのか、その場にしゃがみ込む。
「今のが君の力だ。これで力の調節ができるようになったら、現段階では無敵に近い。余力はあるか?」
凱に話しかけられても、まだ呼吸が整わず、それに応える余裕がないルイーゼは何とか頷く。その様子を心配し、彼女のもとに駆け付けた私は、
「ルイーゼ、お疲れ様。すごい力だったよ!力の解放、おめでとう!でも…、あれだけの力が解放されたばかりだから消耗が激しいはず…。今は休もう。」そう声をかけて、ルイーゼに水を飲ませているとファータの能力者たちが集まり、
「今の力はルイーゼか?とてつもない威力だったぞ。」
「その細腕から繰り出されたってわけか?とんでもないな。」
「俺たちでもあそこまでの力は出せない…。」
「潜在能力は計り知れないな。まだ伸びるぞ。」口々にルイーゼの力について話し始める。
私はルイーゼとの能力融合の瞬間、つい最近似た感覚を感じた事を思い出す。
『メルゼブルクでの凱との力の融合?化学反応的な?あの時と同じ。まさか…、ルイーゼとの力の融合は何か特別なものを引き起こすかもしれない』
私のこの考えが、現実のものになるのにそう時間はかからなかった。
※「颮撃音破」ひょうげきおんぱ(つむじ風の様に一瞬で懐に入り、音の力で撃破)




