【第3夜⑤ ~恋愛の難しさ~】
皇子拉致事件から数日が経ち、各国からの部隊も8割がた入国を済ませ、それぞれが戦いに向けた準備を始めたころ、凱と私、ルイーゼの修業も始まっていた。力の出し方に手こずるルイーゼは、なかなか能力の覚醒をみないが、私はさらなるステージに入っていた。凱も同じく、まだこのファータでの力の解放の余地があり、エルフィー皇子無き今、各国から集まった様々な能力者から教えを乞い、着々と力をつけていった。
「この星の能力ってどれくらいあるって言われてるの?」凱の修業のために集まった、各国の最上級の能力者たちに聞いてみる。
「そうですね、まず、ファータの異能力は精霊との契約で初めて力を得られるものなので、精霊の数…と言うのが正しいのかと思います。ただ、まだ未知の精霊もおりますし、はっきりとした数をお答えするのは難しいかと…。」身長が2.5mはあろうという大男が話す。
それに続けて子供と見間違えるような小柄の女性が、
「姫様の能力も…、全ての精霊と契約されたら、とてつもない種類になるでしょう。これからが楽しみですね。」そこにいるみんなが私の顔を見てほほ笑んでいる。
「早くその力を解放させたいんですけど…、何かコツはあるんですか?」との私の質問に、みんながそれぞれ応えてくれる中で多かった答えが、
『修得したい力のイメージを膨らませることから始めると、その次のステップに進みやすい』ということだった。
「じゃあ、まず、そこにある水を剣に変えることをイメージしてください。」さっきの大男が先生となり、レクチャーを始める。
私たち3人が取り組むも、すんなりできたのは凱だけ。私の剣はナイフくらいの大きさにしかならず、ルイーゼに至っては、水の雫さえ作れなかった。
「まずイメージの段階ですね。圧倒的にイメージ力が低いので…、絵を描くことから始めましょう。」苦笑する先生。
「絵ですか?」
「そう。この何も書かれていない紙に…、何でもいいです。とにかくいろんな種類の絵を描いてください。出来れば想像上の。実際にある物よりもイメージ力がつきます。そうやって膨らんだイメージを頭の中で動かす。ということで…、莉羽様とルイーゼさんはお絵かきの時間ですね。」優しい笑みで話す。
私はその巨人先生に見入って考え事をしていると、それに気づいた凱が、
「姫?ちゃんと、集中してください。」と、しかめ面をしてこちらを見ている。
『えっ?私の考えが読まれてる?』私が焦っていると、凱が心層に話しかけてくる。
『読めてるよ。くだらないこと考えないで、ちゃんと集中しろよ。』
『だって、めちゃくちゃガタイのいい巨人がお絵かきの指導してくれて…、しかも笑顔がキュートなんて…。』そう思ったのが、心層を通じて凱にバレてしまっていた。
『お前なぁ…。早く力を解放させたいんだろ?』凱が呆れたような顔でこちらを見ている。
『そうだけど…。いかつい容姿にあのかわいらしい笑顔って、ギャップ好きな佑依が喜ぶなぁって思ったんだもん。』
『佑依の話か…。なんだよ…。俺はてっきり…お前が…。』
『何よ、てっきりって。』私は意味が分からず凱に問う。すると凱は顔を赤くして焦ったように、
『佑依には玄人。それ以外にいるかよ。』話題を変える。
『え?佑依も玄人…って?』
『え?お前まさか気づいてなかったの?』
『何それ?』
『誰が見てもそうだろうが…。』
『だって、佑依は違う人が…。』
『嘘だろ?』
『嘘では…、ないけど。』
『俺には佑依も玄人の事が…と感じてたけど。そうなのか…。玄人…。ショックだろうな…』
『恋愛って…ほんとに難しいね…。』
『ああ。』
私たちが心層でこんなやり取りをしていることなど知らず、不思議そうな顔をしてこちらを見ている巨人先生の手前、お絵かきを続行する私。
その後3日間、少しでも巨人先生の事を可愛いなんて思った自分が馬鹿らしいと思い続けていた。なぜなら、私はルイーゼと共に、朝から晩までひたすら絵を描くことに専念する事になったからだ…。




