【第3夜① ~民の心を…~】
まだ確実な移動魔法を習得していない私の、神頼み的な魔法によってファータへ飛ぼうとする無謀な行動は、意外にも成功する。
ファータでの自室で目覚めた私。
皇子を奪われたあとの世界は不安に満ち溢れていた。ましてや、挙式最中での拉致は、人々の心に想像以上に不安の影を落とすことになった。
「おお、姫。目覚めたか!」父である国王ルドヴィク13世が私の顔を覗き込む。
「姫様!」乳母のヴァランティーヌは泣いて喜ぶ。
「お父様…、ヴァランティーヌ…。」私は2人に微笑みかけた後、ゆっくり体を起こし、父に話しかける。
「お父様。皇子がさらわれてから、どれくらい時間がたっています?」
「5時間ほどだ。でも莉羽、今はそんなことを考えなくてよい。全て皇兵団に任せておる。今は自分の体の事だけ考えなさい。目の前で皇子が連れ去られた精神的ショックもあろう…。今は気を張っているから何とか頑張れるかもしれんが…、心は思っている以上に弱っているはずじゃ…。それに体中、舞い上がった風で、擦り傷だらけで、美しい顔に傷が残ったら大変だ。」そう言って、また寝かせようとするのを断って、
「お父様。私の事は大丈夫です。それよりも…、あんな光景を目の前にした民の心が心配です。ただでさえ、ここ最近の拉致事件で、民の不安は大きくなっているというのに…。歴代最強と言われるまでの皇子の拉致は、人々に絶望をもたらしてしまったかもしれません。集まってくれた民はまだ外にいますか?」
「この状況だ。また何か起こるやもしれんと思い、その場に留まるよう指示は出してあるが…。」
「ありがとうございます!お父様。」私はベッドから出て、
「凱?行くわよ!」そう言うと、部屋の隅に控えていた凱が答える。
「はい。」歩き出す私と凱。
「姫…、様?」突然動き出した私と凱の姿に、王とヴァランティーヌは訳が分からず困惑する。




