【第2夜② ~一歩ずつで良い~】
【前回より】
「これからも、きっといろんなことが待ち受けていると思う。でも、その時は必ずお前には俺、俺にはお前がいると。忘れないでくれ。どんな状況になっても…。」凱はそう言って、私の手を握り返す
私は凱のその含んだ言い方が気になりつつも、
「ねえ、それはそうと…、私、次はファータに行きたいと思ってる。」凱は少し驚いて、
「どうして?」
「エルフィー皇子が連れ去られた後のファータが心配だし、私の未解放の潜在能力について、皇子がちょっとヒントをくれた事を思い出したの。」
「そうか…、少しずつ記憶を取り戻してることで、別の記憶も感化されて呼び起こされてるんだな。潜在能力も…。ところで、行きたいって言って、その力は得られてるのか?」
「おそらく…。」
「おそらくって…。」
「凱も念じてみて。私も行きたいって念じるから。」
「は~?まさかの神頼みかよ。」
「神遣士だけに、神様が聞いてくれるかも!」どや顔の私。
「安直な…。」ちょっと呆れつつも、笑う凱。
「念じてみても、行けなかったら…。」と、凱が言いかけたところで、突然、敵であるはずの莉奈が現れる。私たちが動揺のあまり動けないでいると、
「何?2人で楽しそうに話してたのに…。急に動けなくなって…、どうしたの?私も入れてほしいかったのに。」何事もなかったかのように話しかけてくる。
「…。」私と凱は、言葉が出てこない。
「何?ほんとに2人とも、どうしたのよ?私を化け物みたいな目で見て…、そういうのやめてよ~。」明らかに依然と違う目つきで私たちを見る莉奈に、
「どうしたんですか?莉奈さん。」ようやく凱が訊ねる。
「ちょっと凱君にお願いしたいことがあって…。」莉奈は少し甘えた声で言う。
「なんですか?」
「ちょっと付き添ってほしいところがあるの。」
「病院ですか?」
「うん、まあ、そんなとこ。」
「分かりました。」
「ありがとう。じゃあ、日時がはっきりしたらお願いするね。じゃあ、またね。」そう言って部屋を出て行く莉奈。
私と凱は、莉奈が階段を上がっていくのを確認すると、
「なんだか普通だったね…。あんな後だから、身構えてたんだけど、拍子抜けしちゃった。」私は胸をなでおろす。
「確かに…。俺もどう出てくるかな?って、思ってたけど、いつも通りだったな。」
「付き添ってほしいって、病院じゃないよね?」私はまた凱と莉奈が、2人で出かけるのを想像して不安になる。
「ああ、おそらく…。でも心配するなよ。俺は大丈夫。」そう言って笑う凱に、心配なのはそこじゃないのに…、と言えない自分に歯がゆさを感じてしまう。
「でもさぁ…、莉奈は何があって敵側に回ったんだろう…。やっぱり後ろにいる何者かに操られてるのかな?」
「可能性は高いな。でも…、これが莉奈自身の意思で動いているとしたら…。それこそ何が目的かわからない。」
「そうだね…。ほんとにこれから何が起きるんだろう…。
私が神遣士ってことだけど、私にその役割が果たせるのか…、不安でしかない。何回も同じ事言ってるけど…、ほんとに怖くて…。いい加減、腰を据えて、この世界の脅威に挑んでいきなよって、自分でも思うんだけど…、そうやって割り切れない自分がいて…、情けないね。」私は自分に呆れて苦笑いをする。
「当り前だ。こんな状況、どう考えても、今まで普通に女子高生やってきた人が、抱えきれる問題じゃないんだ。だから俺がいるし、仲間がいる。
真実を知ったばかりで何も分からず動いていた時に比べて、仲間は倍以上になった。みんな、熱い心を持った良い奴ばっかだ。それもこれも、みんなお前の人柄に引き寄せられた奴だろ?
だから、一歩ずつで良い。お前は自分に自信を持て。そのへんは俺が太鼓判を押してやる。」
凱は珍しく、少年のような笑顔でニコッと笑って、私を安心させてくれようとしている。
私は、そのストレートな凱の優しさを全身で受け止める。




