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【第2夜① ~お前には俺、俺にはお前~】


 その日起きたのは昼前だった。シャワーを浴び、このアースフィアでの昨夜の出来事を思い出す。手の甲へのキス。あの流れは当然キスと思いきや…、それ以上のことはなかった。昨夜シュバリエで、初めて自分からも凱を抱きしめたけれど…、やっぱり私と凱の関係は、主と従者で、恋愛は出来ないという凱のサインなんだなと痛感する。


その後シャワーを浴びながら、

『あれ?こんなところが怪我して…あっ、あの時の傷か…。』


魔の山で、凱に抱えられたときにできた傷に気づき、

『シュバリエで出来たように、このアースフィアでも治癒魔法で治せるのかな?ちょっとやってみよう』と思い、試しに呪文を唱えてみる。すると傷は一瞬で治ってしまった。


『え?治ってる!ここでも魔法使える!』私は早く母に伝えなければと、バスタオル一枚でリビングに走りこむ。


「お母さん聞いて、ここでも魔法が…。」そこに母はいなかった。その代わりに…、


驚きのあまり目を見開いた凱。私たちは見つめ合うが、お互い言葉が出ない。


「…。」私は猛スピードでお風呂に戻る。


『なんで?なんで凱がいるの?私バスタオル一枚で…。あ~、恥ずかしすぎる。どうしよう…』


私は急いで着替え、リビングの様子を伺う。凱は何事もなかったかのようにテレビを見ている。私が様子を見ながら静かに部屋に入ると、


「何事だよ…。」


凱は何ら動じていないのか、落ち着いたトーンで振り返りもせず話しかけてくる。テレビの方を見たまま一切私の事は見ない。私はそんな凱の様子に、


『えっ?こんな状況に普通でいられるの?』と、逆に動揺して、


「何事って、凱がいるなんて思わないじゃない!」ムキになって言う。


「お前、いつもこんな感じなの?」


「うっ、うん。だって、お父さんもほとんどいないし、お風呂出たら家の女子は、みんなそうなんだもん。」


「おいおい、宮國家大丈夫かよ…。これから俺がいることも増えるから、お願いだから意識してくれよ。」


凱は相変わらずテレビに視線を集中し、不機嫌そうだが、凱の斜め後ろから見える顔と耳が赤くなっているのが見て取れた。


『やっぱり凱も動揺してる!』


私は凱が意識している事を確認したら、なんだか余計にドキドキしてしまい、恥ずかしさにその場にしゃがみ込んでしまう。とりあえず返事をしておこうと、


「わかったよ…。はいはい、気を付けます!」意識しすぎて、声が上ずり、変な口調で返してしまう。私は、またやってしまった!と首をもたげる。すると、視界に怪我をした太ももが入り、言いたかったことを思い出す。


「じゃなくて…、すごいの!」私は興奮して、凱の目の前に立って話す。


「なにが?」突然目の前に来た私の勢いに押されて、凱が椅子ごとひっくり返りそうになる。


「おいおい、なんだよ。落ち着け。」凱はそう言うと椅子に座り直す。


「この前、魔の山で怪我したの覚えてる?」


「魔の山で、俺がお前を抱えてアイシャさんの石を奪った時だよな…?あの時お前、バタバタ動いてたから…。」凱はまた態勢を直して話す。


「だって、突然抱えられたから、びっくりしたんだもん。」


「それはほんと悪かった…。でもああいうの、これから増えるかもしれないから、その時は対応してくれ。」凱はそう言うと、またテレビに目をやる。


「いやいや、分かってるって!臨機応変でしょ?…、じゃなくて、傷がね、なくなったの!」


「え?」凱はその言葉に私を見る。


「シュバリエで魔法と神術が使えたじゃない?だからここでも使えるかなって、治癒魔法使ってみたら…、使えたの!見て!治ってる!」と言って、凱の目の前に太ももを出す。またもや顔を押さえて真っ赤になる凱。それに気づいて真っ赤になる私。


「お前って奴は…、全く…。」顔を赤くしながら呆れる凱。


「ごめん。でも、すごい発見だと思って、早く伝えたくて…。」私も顔を真っ赤にして足を隠す。


「まあ、気持ちは分かるし、俺としてはいろいろラッキーだけど…。心の準備ができてないときはやめてくれ。」赤くなった顔を隠すように片手で顔を覆い、目線をずらしながら話す凱。そんな凱の様子に、私も顔を真っ赤にしながら頬を膨らませて、


「何言ってんの!バカ凱!」私は凱の肩を叩く。落ち着くまでしばし2人無言の時を過ごす。


『私ったら何やってんの?もう自分で自分の事呆れる…。でも…、凱、ラッキーって言ったよね?ってことは、少しは私を女の子として意識してくれてるのかな?』そんなことを思いながら、ふと、また言いたかった事を思い出し、続ける。


「じゃなくて、ここで使えるってことは、アースフィアでお母さんにアドバイスもらいながら、レベル上げ出来るってことでしょ!早く強くならないと、シュバリエの王に言われたこと…。」私が興奮気味に話すのを見て、冷静な顔で、


「なあ、莉羽。前も言ったけど…、そんなに気負わないでくれ。昨日だって…、父さんと母さんのことで…。全部背負い込んでるお前の心がいつか壊れそうで…、俺は本当に怖いんだ…。」凱は心配そうに言う。


「心配してくれてありがとう。でも私は…、そういうのも全部、心の別の場所に置いておかないと、心が持たないことを無自覚的にわかっているんだと思う。自然に心の防衛本能が働くのか、いろいろ辛いことあっても何とか今までやってきたし…。とはいえ、そういう時はだいたい、凱が傍に居てくれてたんだけどね…。」私はさっきまでのハイテンションな感じから、落ち着きを取り戻し、


「正直、こうやって、気持ちを何とか上げて行かないと、厳しいよ…。でもね、昨日も、その前も、どんなに辛い事があっても、凱がいれば大丈夫だって、分かったから…。大丈夫って、いつも支えてくれるって凱の気持ち、十分受け取ってるから…。だから、大丈夫だよ。バートラルさん!」私がそう言って、凱の手をとり、にこっと笑う。そんな私に凱は、


「これからも、きっといろんなことが待ち受けていると思う。でも、その時は必ずお前には俺、俺にはお前がいると。忘れないでくれ。どんな状況になっても…。」凱はそう言って、私の手を握り返す。


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