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【第1夜㊴ ~もう1人の「黒」~」

 いつの間にか眠ってしまっていたのだろう。気づくと私は見知らぬ部屋のベッドに寝ていた。起きた私に気づいた凱が、


「まだ夜中だ、寝てていいぞ。」そう言うとベッドに座り、私がなかなか寝付けないのが分かったのか、


「父さんと母さんのすぐそばに…、魔法痕があった。」凱が呟く。


「魔法?この星で使えるのは私と凱だけじゃないの?」驚く私。


「そのはずだ…。でも考えたらもう1人、この星とメルゼブルクを行き来している人物がいる。」私はしばらく考えて…、はっとして凱の顔を見る。


「ああ。その通りだ。彼女しかいない。」凱はしばらく下を向いて、


「もしそれが本当だとすると…、魔の山の秘密を知っているアイシャが危ない。また何かを思い出す前に始末しようとするに違いないからな。だから、お前が寝てる間に団長に知らせた。でも間に合うか…。」


「そんな…。」


「ねえ、凱?ずっと気になってたんだけど、ちょっと前に凱が、ハルトムートのお姉さんが拉致される夢を見たって言ってたじゃない?その時の黒髪の女と、魔の山でサンドラを凱よりも早く殺したっていう女って…、父さんと母さんを殺した人と同じ人?」凱は私の問いに驚いた表情で、


「ああ。まだ夢の時は確信がなかった。でも魔の山と今回。間違いない。」


「そんな…。」私はその事実を、心のどこかで分かっていた。しかし、信じたくない自分がいて、それに蓋をして誤魔化してきた。でも、もう誤魔化すことは出来ない。人が何人も殺されている。そう、その犯人が、


『莉奈であること』そして、その事実から逃げてはいけないということ。


 母莉月から、莉奈の疑惑を聞かされ、自分でもその不可思議な行動を何度も見てきた。しかし、病弱だったあの莉奈が「黒」である事に、どこか信じられない思いと、信じたくない思いがあった。でも、もう目を背けてはいけない。莉奈は昔のように心優しい「姉」ではもうない…。


 ロイといい、莉奈といい、もう誰が敵で、誰が味方なのか分からない。もう誰も信じることが難しくなっていた。


 心が徐々に闇に飲まれていくような感覚の中、ふとある言葉が思い出された。


『崇高なわが神』


その言葉が頭から離れない私は凱に問いかける。


「凱。魔の山でピンクの石から声が聞こえてきたの覚えてる?」


「ああ。」


「あの石、『崇高なわが神』って言ってたよね。神なのに、人々を救うどころか、こんなにもたくさんの犠牲者を出して…。」私はこのシュバリエで尊い命を失った。その犠牲者を思い涙ぐむ。凱は私の手を握り、


「そうだな…。その…、向こうの『神』が、今回のこと、全てを仕組んでいるんだろうが、目に余るものがある。到底許すことは出来ない。」


 凱の手に力が入るのを感じた私は、凱の手を私の両手で包み込み、おでこに当て、静かに涙を流す。今までため込んできた、全ての思いが溢れていく。


「そもそも…、私が神遣士って何なの?神様の声なんて聞こえないし、今まで聞いたこともない。こんな私に何ができるというの?普通の女子高生だよ。それなのに…、みんな…、私に何を求めるっていうの?もうやめてよ…。もう嫌なの。私の大切な人が殺されたり、大切な人に裏切られたり…。もう苦しいの。もう止めて。元の生活に戻してよ!」


 私は凱の手を、より強く握って泣き叫ぶ。凱は私の泣き叫ぶ姿に一瞬驚くが、震える私の体を落ち着かせるように、強く優しく抱きしめる。


「敵も何者なのかわからない。あるのはただ、この世界を救いたいという思いだけ。だから、何が起きるか何もわからない状況で、私は「神遣士」である責任を果たすために、一生懸命頑張ってきた。でも、頑張るって何?もう…、気持ちがもたないよ…。」私の頬を大粒の涙が伝う。


 凱は目を閉じ、抱きしめながら私の頭を撫でると、少し体を離し、左手を私の右手に乗せ、右手を私の頭に乗せ、自分のおでこを私のおでこにつけて、


「ごめん。莉羽の心が壊れそうな事、気づいてたのに、結局何もできなくて…。ただでさえ、神遣士だと言われて、頭の中パニックなのに、魔法、神術使って敵を倒せとか、世界を救うとか、無理難題ばっか言って…。お前の心の負荷が、どんどん大きくなっていくのが分かってたのに。支えるって言いながら、俺は何もできていない。」凱は自分の至らなさにいらつく。


「違う、凱のせいじゃない…。凱が悪いんじゃないの…。分かってるの…、誰のせいでもないって…。分かってるの…。」


私は自分の声が、徐々にか細く消えそうになっていくのを感じながら、目を閉じる。疲労と貧血が重なったところに、激しい感情の波が押し寄せたことで、そのまま気を失ってしまった。



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