【第1夜㊳ ~愛を教えてくれた人~】
国王との会談を終え、私と凱は一度自分たちの村に戻る。
別れを覚悟して出たあの日以来、片時も忘れることのなかった父と母。また再会できる喜びでドアを開ける。すると目に飛び込んできたのは…、
変わり果てた両親の姿だった。先に家に入った私が、声も出せず震えている様子に気づき、駆けつけた凱は、状況を把握し、すぐさま私の目を抑え、抱きしめる。しかし、その惨状に凱も声を発することができずにいた。
殺害されてまだ間もないのだろう、鮮血があたりに飛び散り、リビングが血の海と化している。凱は私を庭のベンチに座らせ、
「エドさんに話をしに行ってくる。お前はここにいろ。」と隣の家に行こうとするが、私は震えが止まらず、凱の上着をつかんで、
「ここに置いていかないで。」と声を振り絞り、掴んだ手に力を込める。凱は私の顔を頷き、私の肩を抱いて隣の家まで歩き始める。
「おお、凱に莉羽。いろいろ大変だったな。でも騎士団が正式に認められて本当によかった。みんな心配していたんだよ。ん?どうした?」隣の主人エドが出てきて、初めは私たちの顔を嬉しそうにしていたが、私たちの異様な様子に気付く。
「ありがとうございます。何とか戻ってくることができました。それで…、今、家に入ったら…。」凱が状況を説明すると、主人は信じられないというような顔で、
「つい、1時間前にお母さんと話したんだよ。2人が戻ってくるって、それは、それは喜んでいたんだ…。それが、まさか…、そんな…。」顔を真っ青にしながら話す主人。
「1時間前…。」凱は怪訝な顔で言う。
「それに、私はついさっきまで庭で薪を割っていたんだ。その間来客はなかった。どういうことだ?」主人も訳が分からなくなって、
「とりあえず村長のところに知らせてくるから、莉羽の事を見ててあげて、凱。」
「すみません。ありがとうございます。」
私たちは再び庭に戻り、凱が私を抱きしめながら、
「莉羽。こんな時まで自分を殺すな。泣きたいときに泣いていいんだぞ。神遣士だから強くなきゃいけないとか、そんな事考えずに、我慢しなくていいんだ。心を自由にしろ。泣きたいとき、俺が必ず傍にいて受け止めるから…、だから…。」
そう話す凱の心もいっぱい、いっぱいなんだと気づき、それでも私を支えようとしてくれる凱の気持ちも感じ…、どうにも抑えきれず、凱の胸で大声を出して泣いた。涙が枯れるまで、泣き切るまで泣いた。捨てられた私を拾い、育て、何があっても常に味方で、優しく見守ってくれた両親。家族4人で過ごした温かな時間を思い、幸せだったあの空間を思い、私は何時間も泣き続けた。そして、凱はその間ずっと私を抱きしめてくれていた。
一時も離さず…。




