【第1夜㊲ ~勝利の誓い~】
私は凱の言葉に、ファータでの自分の言葉の力を思い出す。大勢の民が私の言葉、一つ一つに耳を傾け、涙する。その姿は未だなお、この目に焼き付いている。
また今まで読んできた漫画や小説の中でも、ヒーローやヒロインの言葉の求心力は見てきたし、自分の「神遣士」としての立場を考えると、納得がいく。
「緊張しちゃうけど、出た方が良いよね?」凱は黙って頷く。
私は元々大勢を前にたいそうな事も言えるキャラでもないし、まだ力も完全解放されているわけでもないので、あまり大見得切って話せないな…と考え、自分なりの言葉で伝えるしかないと、意を決して前に出る。
王の間に集まった多くの者たちが、この盛り上がりも最高潮の中、私が一体何を話すのかと見つめる。その時の私は分からなかったが、その目は神遣士である私への期待感で溢れていたそうだ。しかし、そんな事さえ、鈍感な私が気付くはずもなく、場内が静かになったのはとても気にはなったが、構わずに話し始める。
「ハルトムートの登場で盛り上がっている中、すみません。皆さん!」皆、耳を一斉に傾ける。
「先ほど、騎士団の再結成が王により宣言されました。フィン団長、マグヌス、ハルトムート両副団長の力があれば、鬼に金棒です!私もこの国の為に頑張るのでよろしくお願いします。あっ、それと…。私が神遣士だからといって、殿も様もいらないので、今まで通り莉羽って呼んでくださいね!」
私がそれだけ言って後ろに下がると、静寂に包まれていた場内が、一気に笑いの渦に巻き込まれる。私は何が何だか分からずにいると、隣で凱が笑うのを一生懸命我慢しているのに気付く。
「なんで、みんな笑ってるの?えっ?私、何か変な事言った?」私が聞くと、凱がお腹を抑えながら、
「みんな、神遣士であるお前の、ありがた~い言葉を期待して待っていたんだよ。それが…、頑張ります!莉羽って呼んでくださいって…。」または再び笑い出す凱。
「えっ?そういうこと?でも、シュバリエでは何回もみんなの前で話してるし、もういいかなって思って…。めちゃくちゃ、恥ずかしい。でも…、様とか、殿とか…、敬称がほんとにくすぐったくて…、身の置き場のない感じがしてたんだもん…。」私は、やってしまったと顔を真っ赤にしていると、凱が助け船を出してくれる。
「その気持ちはわかる。けど…。」と言って、ククッと笑ってから大声で皆に聞こえるように、
「今ので分かったと思いますが、莉羽は神遣士といえど、こんな感じです。今のは、構えず接して欲しいとの気持ちなので、気軽に接してやってください。」バートラルである凱の言葉に、皆も笑顔で答える。
それを見たフィンが、
「ああ、莉羽は、神遣士だけど…、確かに莉羽様とか、莉羽殿って感じじゃないもんな!」
フィンの言葉に全員が頷く。私は少し心が軽くなったような気がして、笑顔で応える。
「莉羽~!俺たちも戦うぞ!」
「莉羽~!頑張ろう!」しばらく場内、笑顔いっぱいの歓声が鳴りやむことはなかった。
その様子を見て、満足の笑みをたたえていたシュバリエ王と側近の女性は、私と凱に、
「ところで…、君たちは特殊な力が使えるとのことだが、例えばその力を使って、この国に他の星の兵士を連れてきて戦う、もしくはその逆パターンというのは可能なのだろうか?
この星の人々は、他の星の人々のように特殊な力を使えるわけではない。もし、多くの魔物、それを従えるような強敵が現れた場合、この星の兵士だけでは、おそらく危機的状況に陥るだろう…。
もし他の星の人々に協力を得られるなら心強い。」王は魔の山での報告を聞いて、不安を大きくしていた。
「そうですね。この星の人々だけでは戦い方が限定され、特殊な力を持つ者に太刀打ちできないでしょう…。とはいえ、私と莉羽、石の力を持つフィン団長の力だけでは、守り切れないかもしれません。多くの人員を行き来させるのを可能にするには、私たちの今の力ではまだ足りない可能性があります。ですから、もう少しお待ちいただけますか?私たちは必ずその力を習得して、ここに帰ってきます。」凱は私の代わりに確信をもって言う。
気が付くと、さっきまで騒がしかった場内は静まり返り、いつの間にか私たちの会話に耳を傾けていたのだった。そして凱の言葉に皆、絶大な安心感を得たようで、私と凱を見る彼らの目は、私たちへの期待で輝いていた。
「ありがとう。凱、莉羽。」王は私たちにそう言い、それから騎士団全員に向けて、
「我々は、未だ正体の見えぬ敵に勝ち、必ずや真の平和を取り戻す。そのために諸君たちには、全力を尽くしてほしい。私も、私に出来得る全てを行うことを約束する。次なる戦いに向けて全員、準備を始めてほしい。」
「はっ。」
場内の空気が一気にピリッと張り詰め、全員が跪き、勝利の誓いを王とその後ろに掲げられた巨大肖像画に向けて約束する。
「シュバリエに恒久の平和あらんことを…」




